三毛猫のオスの謎


 毎日新聞西原理恵子が「毎日かあさん」を連載している。11月9日のタイトルが「お引き取り」、生まれた仔猫5匹の健康診断で獣医さんに連れていく。結果は「はいみんな元気ですねー、問題ないー」というものだったが、突然獣医さんが「ああっ」と驚く。「この三毛猫オスです、非常にめずらしい、何百万もしますよ」。
 ネットで調べるとオスの三毛は3万分の1、値段は100万円以上! 西原は高額所得者なので売って儲けようとは露考えない。「絶対転売しない人を探すしかないですね」という会話から、転売しないで可愛がってくれる人に無料で譲りたいと考えていることが分かる。結局近所に住む犬友達の夫婦にもらわれていった。あとでぐぐると、その人は「芥川賞作家にして日本を代表する文学者、東大名誉教授松浦寿輝先生であった」。
 さて、三毛猫のオスはなぜめずらしいのか。つまり三毛猫はなぜメスばかりなのか。山根明弘『ねこの秘密』(文春新書)に分かりやすく書かれている。それをだいぶ端折って紹介してみる。詳しくは本書を参照されたい。
 三毛猫の毛色の「白」「オレンジ」「黒」はそれぞれ別々の遺伝子によって支配されている。その中でも「オレンジ」遺伝子と「黒」遺伝子の間には上下関係があり、「オレンジ」遺伝子は「黒」遺伝子を働かなくして、「黒」の毛をできなくする。従って1匹のねこの身体にオレンジの毛と黒の毛の両方は共存することができない。ではなぜメスの三毛猫が生まれるのか。
 「オレンジ」遺伝子はX染色体上にある。ただし「オレンジ」遺伝子を持っているX染色体と、持っていないX染色体の2つのタイプがある。前者をXO、後者をXoとする。人もねこもメスはX染色体を2本持っている。それを分類すると、「XO,XO」「XO,Xo」「Xo,Xo」のように3つのタイプのメスに分かれる。それに対してオスの染色体はX染色体が1本しかない。それでオスは「XO」と「Xo」の2つのタイプに分かれる。XOのオスはオレンジ遺伝子を持っているので黒の毛は生えない。Xoのオスは黒の毛となりオレンジの毛は生えてこない。
 メスについてみると、「XO,XO」タイプはオレンジ遺伝子を2つ持っているので毛色はオレンジ、「Xo,Xo」のタイプはオレンジ遺伝子を持っていないので毛色は黒となる。そして「XO,Xo」のタイプで三毛猫が生まれる可能性がある。実は細胞分裂の初期に2つもっているX染色体の片方が不活性化してしまう現象がみられる。どちらが不活性化するかは細胞によってランダムで、2分の1の確率で現れる。XOタイプの細胞がある部分はオレンジに、Xoタイプの細胞がある部分は黒の毛が生えてくる。さらにこのメスが白い毛の遺伝子を持っていれば三毛猫が誕生する。
 では三毛猫のオスが生まれるのはなぜか。これは染色体異常で、メスと同じくX染色体を2本持つオスなのだ。このタイプのオスはメスと同じく3つのタイプに分かれ、メスと同じ理由で三毛猫が生まれてくる。その確率を山根は数千分の1と言っている。
 山根の記述を相当端折って紹介したので、詳しくはぜひ『ねこの秘密』を読むことをお勧めする。


※追記(2014.11.13)
 山根さんの補足説明によれば、「三毛猫のオスの出現率は、三毛猫全体のなかで数千分の1となります。猫全体(いろいろな毛並みの猫すべてをあわせて)だと数万分の1の出現頻度となると思います」とのこと。



ねこの秘密

ねこの秘密