鈴木紀之『すごい進化』を読む

 鈴木紀之『すごい進化』(中公新書)を読む。“「一見すると不合理」の謎を解く”というのが副題。著者は昆虫学者なので、昆虫の事例がたくさん紹介される。いずれもとても興味深い。
 塚谷裕一が読売新聞に書評を書いている(7月16日)。

 性の進化の問題とは、なぜ、多くの生物に性があり有性生殖をするのか、という疑問である。日本のヒガンバナがやっているようなクローン繁殖に比べると、有性生殖は無駄が多い。オスとメスの両方が必要だし、両者の繁殖のタイミングや好みも合致する必要があり、まだるっこしい。この疑問についてこれまでは、有性生殖では遺伝子セットが多様化しやすい、といったメリットに焦点を当てての説明が試みられてきた。しかし決定打に欠け、議論はやまない。
 それに代わり本書で紹介される新仮説は、逆転の発想だ。すなわち、オスというものが偶々進化してしまうと、それによる有性生殖を排除できず、なんと「オスがいる限り、性というシステムが『仕方なく』維持される」のだという。その理由と検証についてはぜひ本文を!

 オスのみさかいのなさ、という項もおもしろい。

 ほとんどの生物でオスとメスの割合(性比)はおよそ1対1です。(中略)もしオスの数が少なくて、メスの数が多ければ、オスはたくさんのメスと交尾できるチャンスがあります。しかし、メスの数はオスの数と同じですから、オスは生涯に1匹のメスとパートナーを組んで自分の子を残せれば御の字なのです。
 ところが実際は、オスの「モテやすさ」には多くの生物で偏りが報告されています。つまり、たくさんのメスとパートナーを組めるオスがいれば、(メスの数は限られていますから)一度も交尾せずに生涯を終えるオスもいるということです。たとえばプエルトリコアカゲザルでは、群れの中に暮らす子のおよそ4分の3はある1頭のボスを父親としています。その一方で、平均すると7割ほどのオスが毎年一度も交尾をできずに過ごしています。自然界のオスには勝ち組と負け組がシビアにあらわれるのです。

 昆虫を例に実例をもとに議論を組み立てているので説得力があり、実に面白かった。題名の『すごい進化』がよく納得できた。