三木成夫『内臓とこころ』を読む

 三木成夫『内臓とこころ』(河出文庫)を読む。35年ほど前に三木が保育園で行った講演を本にしたものの文庫化。単行本は1982年に出版されており、それが三木の処女作だったという。すぐ後に名著と評価の高い『胎児の世界』(中公新書)が出版されており、その5年後に三木が亡くなっている。
 三木は東大医学部出身で解剖学教室を経て東京芸術大学教授だった。
 保育園での講演ということもあってか、育児と絡めて心の形成を内臓との関係から語っている。とくに子供の成長を地球上での生命の発生の歴史と関連づけている。解剖学者らしく胎児の成長と動物の進化を連動させて説明している。胎児の発達が動物の進化の過程と深く関連していることを具体的に指摘している。ついで幼児の心の発達が自身の子供の成長の過程を引きながら語られる。
 巻末に養老孟司の解説が付されている。養老は書く。「久しぶりに三木先生の話を読んで、先生の語り口を想いだした。三木先生の語り口は独特で、それだけで聴衆を魅了する」と、その解説を始めている。しかい、解説の最後の方でこう言っている。

 以下は老婆心である。この本を読むときに、現代の生物学の本を読むようなつもりで読まないで欲しい。生きものとわれわれをつなぐものは、ただ共鳴、共振である。それを三木先生は宇宙のリズムと表現した。共振はどうしようもないもので、同じリズムで、一緒に動いてしまう。三木先生はおそらくその根拠を追求し、長い生命の歴史のつながりを確認したのである。21世紀の生物学は、おそらく生きもののそうしたつながりを確認する方向に進むはずである。またそうなって欲しいと思う。

 たぶん養老は本書の解説を頼まれて困ったのだろう。さすがに35年ほど前の三木の「こころ論」は古臭くなっている。現在読み直すほどの内容ではないだろう。この後に書かれた『胎児の世界』の評価が高いのは、おそらく胎児の成長の話に限っているからではないだろうか。こちらは10年以上前に購入したがまだ読んでないので確かなことは言えないが。近いうちにちゃんと読んでみよう。


内臓とこころ (河出文庫)

内臓とこころ (河出文庫)