蝶の道

 長谷川櫂「麦の穂ーー四季のうた2008」(中公新書)に近藤沙羅の句が紹介されている。

 高々と紫苑の花や蝶の道


 北鎌倉の東慶寺は草花の美しい寺。今ごろ、花畑では高く伸びた紫苑の花が風に揺れているはず。どこからともなく現れた蝶を眺めているうちに、紫苑の花伝いに蝶の行き交う道が見えてきたのだろう。空中にある蝶の道は何とかろやか。

 これはおそらく昨年の9月30日の読売新聞に掲載されたもの。「今ごろ」というのはそういうことだ。さて、蝶の道という言葉を知ったのは中学のころか高校生だったか。庭の背の高い花にアゲハだったかキアゲハだったか、目立つ大きな蝶がやってきて、来たのとは反対の方へ飛んでいった。翌日も同じ頃同じ方向からそれらしき蝶が飛んできてまた反対方向へ去っていった。蝶の道って本当にあるんだと思ったことを憶えている。連続して観察したのだから夏休みだったのではないか。
 当時夏の庭に咲いていた背の高い花は何だったのだろう。ヒマワリ、オオケタデ? シオンはもう咲いていただろうか。庭から庭へと続く蝶の道が見えた。


麦の穂―四季のうた〈2008〉 (中公新書)

麦の穂―四季のうた〈2008〉 (中公新書)