堀越千秋のエッセイと個展


 朝日新聞の別冊に『GLOBE』という隔週刊のタブロイド判がある。ここに画家堀越千秋のエッセイ「銅像の価値とは?」が掲載された(10月19日)。それを要約する。
 スペインのフラメンコ歌手ラファエル・ロメーロは堀越の友人だった。彼の唄(カンテ)は日本にも愛好家がいて、日本に呼んでコンサートをしたことがある。堀越はその連絡係になった。日本からスペインに戻ってきたラファエルは言った。「日本てのは特別だよ。皆シーンとして聞くんだ。聞いてないのかなって思うぐらい静かだが、歌い終えると、皆ホーッとため息をつくんだ」。その3年後、ラファエルは亡くなった。
 日本のファンたちはラファエルの銅像を作って生地に寄贈しようと言いだして寄付を募った。しかし銅像を作るには不足して、結局堀越がレリーフを作ることになった。除幕式で「歌うラファエルの横顔があらわれ、我ながらそのリアルさにゾッとした」。
 堀越は画家でありながら、文章もいわばプロ並みだ。あちこちの新聞雑誌に連載をしているし、著書も何冊もある。だから、こんな風にしゃれたエッセイを目にすることが多い。文末に簡単な略歴が載っていた。

1948年、東京生まれ。画家。スペイン在住。『武光徹全集』の装画で経産大臣賞、独ライプチヒの「世界で一番美しい本展」日本代表。スペイン文民功労賞受賞。東京・銀座の画廊香月で11月1日まで、個展を開催中。

 経産大臣賞というのは経済産業大臣賞のことか、初めて聞いた。『武光徹全集』の装画というのは、CD全集のジャケットを飾った絵のことだ。あれは本当に良かった。今回初めて大臣賞をもらったと知ったが、まさに受賞に値する作品だった。今まで堀越の作品をたくさん見てきたが、あれが一番よかったと思う。もっとも、その武満徹CD全集のポスターを見たのは、いまはないギャラリー汲美が銀座4丁目の三越のそばにあったころの画廊入口の壁に貼ってあったものだったから、あれからもう20年以上経っているのだった。
 略歴の最後にもわずかに触れられていたように、現在東京銀座1丁目の(名物)奥野ビル6階の画廊香月で堀越千秋展「横になって浮く」が開かれている(11月1日まで)。DMはがきに掲載されている堀越の言葉。

水に横になればヒトは浮く。/されば、何を欲してヒトは立って、/わざわざ沈もうとするのか?/ある朝、横になってコーヒーを飲まんと欲し、/器が裸の胸に落ち大やけどを負った。/我思ふゆえに我あり冷や奴。

 立って飲めばこぼすこともなく火傷もしなかった? 
 つぎに画廊主の言葉。

読売新聞夕刊連載画、俳句「杉」装画、名曲の楽しみ、吉田秀和モーツァルトとその音楽と生涯」5巻シリーズ装丁原画、など新作を展示いたします。

 私がひと言付け加えるとしたら、堀越は名文家の画家3人のうちの一人だ。ほかに野見山曉冶と池田満寿夫を数える。さらにカンテでもプロだと聞いている。たまに個展会場でも歌うそうだが、以前リサイタルをしたときの入場料は8,000円だった。
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堀越千秋展「横になって浮く」
2014年10月10日(金)―11月1日(土)
13:00―18:30(水曜・日曜休廊)
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画廊香月
東京都中央区銀座1-9-8 奥野ビル6階
電話03-5579-9617
奥野ビルは銀座中央通りの名鉄メルサの左側の道を入って2つめの交差点で左折。その角がドトールコーヒー。左折して30メートルくらいの古いビル。エレベーターもあるが、手動式。何しろ戦前に作られたビルで、空襲を生き延びたのだ。画廊ビルとしても有名で、中に画廊が30軒以上入っている。