吉松隆『調性で読み解くクラシック』を読む

 吉松隆『調性で読み解くクラシック』(ヤマハミュージックメディア)を読む。「1冊でわかるポケット教養シリーズ」の1冊だ。ヤマハが出版もしているなんて知らなかった。現代音楽作曲家の吉松隆が初心者向けに音楽の調性について解説している。

 音楽の基本の3要素は「リズム」「メロディ」「ハーモニー」からなっている。調性には長調短調がある。長調は明るく、楽しく解放感がある。短調は暗さを感じさせる。ハ長調は#♭ともゼロなので楽譜はすっきりしていて初心者向け。ただやさしいぶん明快で影がなさ過ぎて、「脳天気」なイメージがなきにしもあらず、と。ト長調ヘ長調も#♭が少なくて譜面が読みやすく演奏しやすい。楽器が鳴りやすく音楽も「平明さ」を持った健康なものになる。それに続いて、#2つのニ長調、♭2つの変ロ長調あたりまでが比較的「やさしい楽譜」の調。古典派の時代まではよほどひねくれた作曲家でない限り、この辺りまでの調が普通に扱う限界だった。

 ただし、ピアノや管楽器では「♭」系の調、弦楽器は「#」系の調がもっとも演奏しやすい基本の調である。

 しかし、この後どんどん専門的になって難しくなっていく。さらに日本の音階についても触れられる。

 最後にそれぞれの調性の特徴と名曲が紹介される。

 

ハ長調

 #♭がないので、楽譜を見て弾く多くの楽器にとって初心者向けのもっともやさしい調。音階の基本音しか使わないため、その響きは明るく真っ白な感じがする。特にフィナーレのように「最後の解放感」には最高の調。オーケストラでは金管(特にトランペット)とティンパニを使った勇壮あるいは祝賀的な楽想にも向いている。ただし、運指という点からは(ピアノや管楽器ともども)必ずしも演奏しやすい調ではない。

 名曲は、

ベートーヴェン交響曲第5番〈運命〉第4楽章

モーツァルト ピアノ・ソナタ ハ長調K545第1楽章

 

ニ長調

 弦楽器系(ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ)はすべてこの「レ」の音を開放弦に持っているので、ストリングス系が鳴りやすい。ヴァイオリン協奏曲の名曲(ベートーヴェンチャイコフスキーブラームス)がこの調に集中しているのも面白い。(……)弦・管楽器とも鳴りやすい調だが、ピアノは響きがいまいちなのであまり使われない。

 名曲は、

ベートーヴェン交響曲第9番〈合唱付き〉第4楽章

ヨハン・シュトラウスラデツキー行進曲

 

嬰ハ短調

 主音(ド)が#付きで、属音(ソ)も下属音(ファ)も#付きのため、きわめて響きにくく、使用された曲も少ない。ただし、ピアノにおいては黒鍵を多用するため、技巧的な曲やユニークな楽想の曲に使われることがある。

 名曲は、

ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第14番〈月光〉第1楽章

ショパン 幻想即興曲

 

 嬰ハ短調といえば、ショパン夜想曲第20番遺作もそうだった。