NHKFMを聴いていたらローラ・ライトの歌う 「The Last Rose of Summer」が紹介された。それはとてもきれいな歌声だった。
https://www.youtube.com/watch?v=UUpG_mlU1dM
この「The Last Rose of Summer」は日本では「庭の千草」の名前で小学校で歌わされた記憶がある。そして何よりも私にとって30年以上前に購入したギドン・クレーメルの『ア・パガニーニ』というアルバムの中の1曲「練習曲 第6番《夏の名残りのバラ》」というエルンストの作曲した超絶技巧のヴァイオリン曲でもある。
クレーメルのCDに続いて今では多くのヴァイオリニストが取り上げる曲になっている。私も五島みどり、マキシム・ヴァンゲーロフ、ルジェロ・リッチ、ヒラリー・ハーンなど様々な演奏を聴いたが、クレーメルに優る演奏はなかった。
https://www.youtube.com/watch?v=8XyxHFQ_Ask
さらにこの「The Last Rose of Summer」は、デル・トレディチ作曲の『夏の日の思い出』『In Memory of a Summers Day』というアルバムを思い出す。
演奏は、ソプラノ:フィリス・ブリン=ジョルソン、指揮:レナード・スラットキン、セントルイス交響楽団となっている。
当時紹介された音楽雑誌の解説を引用する。筆者は出谷と姓のみ記されている。
この〈夏の思い出〉は「アリス」の第1部にあたり、アリスの主題一つで出来ている。導入から3分40秒でアリスの主題が出るが、これが実にノスタルジックで感傷味に満ちた旋律で、古き良きアメリカを回想するような趣がある。どこか新しいマーラーを思わせる雰囲気で、ドラマティックな起伏も充分あるが、聴きどころはその抒情性にあるだろう。ブリン=ジャルソンのソプラノは、独特の発声法でデル・トレディチの世界を存分にうたい上げる。55分10秒から「何故なら《幸福な夏の日》は過ぎ去り」と、ソプラノがうたい出すあたりは、この上もなく感動的である。(後略)
この最後の一連は次の通り。ルイス・キャロル「鏡の国のアリス」(脇明子・訳、岩波少年文庫)から
たしかに ため息のなごりのようなものが
お話をそっと震わせていくこともあるかもしれない
だって 「あのしあわせな夏の日々」は遠くすぎさり
真夏のかがやきは消え失せてしまったのだから
でもそれが このひとときの心楽しいおとぎ話に
悲しみの息を吹きかけることだけは 断じてさせはしない
And, though the shadow of a sigh
May tremble through the story,
For 'happy summer days' gone by,
And vanish'd summer glory-
It shall not touch, with breath of bale,
The pleasance of our fairy-tale.
ルイス・キャロルは、舟遊びをした少女アリスとの帰らぬ夏を思い出しているのだろうが、デル・トレディチはゲイの作曲家なので、やはりあの男友達との帰らぬ禁断の夏の日を思い出しているのかもしれない。
デル・トレディチの『夏の日の思い出』のソプラノの演奏はここで聴かれる。
https://www.youtube.com/watch?v=neiTRVIO_8Q