シューマンが「赤とんぼ」

 吉行淳之介のエッセイ「赤とんぼ騒動」に、山田耕筰の「赤とんぼ」のメロディがシューマンの曲から流れてきたというエピソードが紹介されている。シューマンの「ピアノと管弦楽のための序奏と協奏的アレグロ ニ短調作品134」から赤とんぼが飛びだしてきたという。

 吉行がシューマンのピアノコンチェルトのレコードを求めて聴きはじめた。

 

(……)優美な曲で心地よく聞き、B面の小曲も聞いているうち、その2曲目から突然「赤とんぼ」のメロディが飛び出してきた。「日本のうた」である筈なのに、とジャケットの解説を読んだが、そのことには触れていない。

 

 それを伝え聞いた『夕刊フジ』がそのことを紹介した。

 

『赤とんぼ……シューマンから飛び出した!!』と大きな見出しがついていて、「ピアノと管弦楽のための序奏と協奏的アレグロ短調134」から、どういう具合に赤とんぼが飛び出してくるかを、くわしく調べてある。『何ともロマンチックで典雅な序奏部分が終って間もなく、時間にして3分後、名手アシュケナージのピアノがポロンポロンとおなじみの「赤とんぼ」の曲をかなでる(吉行註、前半部のみ、つまり、夕やけ小やけの赤とんぼ、のところまでの繰返しで、赤とんぼの「ぼ」だけ音が違う)』と書き、『つづいてフルートで2回、6分後また、7分後にはやや変奏されて、そして9分後には、弦でまぎれもなく4回、12分後ピアノで4回、15分の演奏時間に18回』とは、くわしく調べたものだ。

 

 吉行の聴いたのはアシュケナージのピアノのようだが、マレイ・ぺレイア(ピアノ)、クラウディア・アバド(指揮)のCDで聴いてみた。「序奏と協奏的アレグロ ニ短調 作品134」となっていて、吉行の文章には「ニ短調」の「ニ」が抜けている。

 なるほど、赤とんぼのメロディが流れてくる。この新聞記事のあと、同じ新聞に関連記事が出て、20年ほど前、石原慎太郎が友人のドイツ人と一緒のとき、「赤とんぼ」の曲が流れると、「これはドイツの古い民謡だよ」とそのドイツ人が言い出し、「これは日本の有名な作曲家のものだ」という石原と意見が対立した。そのことを石原が随筆に書いたところ、当時存命の山田耕筰から強い抗議がきたという。

 シューマンの曲は1852年、「赤とんぼ」は1927年の作曲という。

 

 

 

シューマン:ピアノ協奏曲/他

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