「書物シリーズ」第6弾『書物審問』を読む

 赤城毅『書物審問』(講談社ノベルズ)を読む。「書物シリーズ」の第6弾という。これを読んだのは、昨年末の毎日新聞の「今年の3冊」という企画で、加藤陽子が本書を挙げていたからだ。ほかの2冊は松本三和夫『科学技術に潜む危機』(岩波新書)と沢井実『近代日本の研究開発体制』(名古屋大学出版会)だった。加藤陽子ではいままで、『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』(朝日出版社)、『満州事変から日中戦争へ』(岩波新書)、『戦争と日本人』(角川oneテーマ21新書)を読んだが、いずれも優れた仕事だった。その加藤が推薦している。そのコメントは、

赤城毅の書物狩人シリーズは本好きには堪らない。ソ連崩壊時にKGB図書館から流失した書物に秘められた謎を追う。

 登場人物は、スコットランドの古い城に住む城主と呼ばれる本の収集家、現在は亡命しているエチオピアの元将軍、ドイツの有名な指揮者、東欧の実業家、そして書物狩人と称する東洋人。城主の求めに応じて4人の収集家たちが、稀覯本を持って城に集まる。彼らがその稀覯本を入手した経緯には犯罪の匂いが付きまとっているようだ。
 だが、彼らの人物造形が類型的だ。会話もそれぞれの経歴にそぐわない、それらしくない。人物造形が浅い。そして所々に会話には不自然な専門的用語を使っている。作者はなかなか衒学趣味が好きなようだ。
 ストーリーはそれなりにおもしろく出来ている。しかし、そんなわけ=細部がお粗末なので十分楽しむには至らなかった。神が宿るには至らなかったのだ。シリーズの他の巻を読むことはないだろう。


加藤陽子『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』の面白さ!(2009年11月12日)


書物審問 (講談社ノベルス)

書物審問 (講談社ノベルス)