毎日新聞の「2025今年の3冊」から

 年末恒例の毎日新聞の書評執筆者28人による「2025今年の3冊」が発表された。これは毎日新聞の書評執筆者が今年1年に読んだ書籍から各3冊を挙げたもの。その中から気になったものを拾ってみた(2025年12月13日と20日)。

 

荒川洋治

『光るリム』千国英世(七月堂・1980円)

 本書は1949年生まれの著者の新詩集。「光るリム」など17編で構成。軽やかなリズムと叙法で、同時代の新たな感興を映し出す。この詩集のことばでしか見られない世界があるように思う。

 

光るリム

光るリム

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磯田道史

古墳時代の歴史』松木武彦(講談社現代新書・1210円)

 本書はトップ考古学者の遺著。最新発掘調査による古墳時代編年史。古墳出現地はヤマトより東とみる。後漢が滅亡、ヤマトが北部九州を介さず魏と直接接触、親魏倭王が誕生。ヤマトの門閥氏族はキビ(吉備)に分派後、さらに二分。4世紀後半、武器を革新したカハチ(河内)の2大門閥が登場。各地の氏族が男系の大氏族に再編された。古墳考古の重要文献だ。

 

 

江國香織

『チャーリーとの旅 アメリカを探して』ジョン・スタインベック青山南訳(岩波文庫・1364円)

 本書は新訳で、行き届いた訳注の塩梅が最高。クラシックな名作だけど不思議なほど新鮮で、居ながらにして土地と時間両方の旅ができる。

 

 

加藤陽子

『続・日本軍兵士』吉田裕(中公新書・900円)

 前著『日本軍兵士』を凌ぐ渾身の書となった。先の大戦では兵士の無残な大量死が発生した。その理由と背景を歴史的に解明。兵士の生活や衣食住を描く一方、将校を優遇し兵士に過重な負担を強いる日本軍の特質を赤裸々に描いた。

 

 

鹿島茂

三島由紀夫を見つめて』四方田犬彦ホーム社・3520円)

 本書は三島由紀夫関連のエッセイや研究を集めて一巻としたものだが、三島由紀夫の自刃の目的は「彼を知るすべての者に死を贈り届けることであった」という結論は決定的である。三島由紀夫パゾリーニの架空対談は対比列伝の傑作。

 

 

張競

二十四史岡本隆司中公新書・990円)

 本書は中国の正史について、その成り立ちと時代的な特徴、および歴史を記述する様式が持つ意義などを説いたものである。『史記』『三国志』の断片からは決して見えてこない世界を知るためには、ぜひとも読みたい一冊である。

 

後宮 殷から唐・五代十国まで/後宮 宋から清末まで』加藤徹(角川新書・1430円)

 同じく中国を扱っても、本書はまったく性格が違う。史料がふんだんに引用されているが、叙述は文化史的な手法が用いられている。王朝の栄枯盛衰を宮廷の私生活との関係に着目し、紹介された数多くのエピソードは興味が尽きない。

 

 

 

 

中村桂子

『土と生命の46億年史』藤井一至(講談社ブルーバックス・1320円)

 地球に生命体が存在したからこそ生まれた土は、生命体の存続を支える基本であるのに、これまで研究の目が向けられずに来た。身近で、しかも複雑だからだ。やっと解明され始めた土に注目だ。

 

 

橋爪大三郎

ハイエク入門』太子堂正称(ちくま新書・1430円

 本書は、欧州、アメリカを股にかけて活躍した経済学者・思想家ハイエクの思索のあとを辿る。経済学の中心がアメリカに移って、いかに経済思想が貧相になったことか。ケインズと並ぶハイエクの洞察の数々はいまの時代なお光を放つ。