全国紙3紙(読売、朝日、毎日)の読書委員が選ぶ年末恒例の今年の3冊が発表された。それらの内、私が読みたいと思った本を取り上げる。
朝日新聞は〔書評委員19人の「今年の3冊」〕。残念ながらここに選ばれた57冊に読みたいと思える本はなかった。
読売新聞は〔読書委員が選ぶ「2023年の3冊」〕。21人が63冊を選んでいる。その中から、
牧野邦昭推薦
伊藤宣広『ケインズ 危機の時代の実践家』(岩波新書)1,034円
ケインズの思想の核を「合成の誤謬」に見出す本書は、ケインズの目指した社会とその経済学を理解する上でよい入門書となっている。
小泉悠推薦
木澤佐登志『闇の精神史』(ハヤカワ新書)1,122円
本書はテクノロジーと人類の未来に関する思想に焦点を当てた1冊。ところが、その「未来」は過去への回想であったりディストピアであったりする、というのが本書のミソだ。
毎日新聞は「2023 この3冊」。38人が114冊を選んでいる。その中から、
橋爪大三郎推薦
斎藤幸平『マルクス解体 プロメテウスの夢とその先』(講談社)2,970円
「人新世」をリードする茶者の渾身の書。晩期マルクスの思索を読み解き、脱成長に舵を切る必然を発見する。ポスト資本主義を模索する最前線に、脱成長コミュニズムが名のりをあげた。
橋爪は、東浩紀『訂正する力』(朝日新書)も超お勧めとのこと。
佐藤優推薦
グレゴリー・ベイトソン『精神の生態学へ 上・中・下』(岩波文庫)1,155~1,540円)
本書は人間の意識を解明しようとした傑作。鍵を握るのが類比(アナロジー)的志功だ。〈文法と植物構造のアナロジーはなにか本質的なものではないだろうか?〉というベイトソンの刺激に衝撃を受けた。
村上陽一郎推薦
本書は、論理実証主義が切り開いた言語への哲学的探求の概要を、判り易く、実感豊かに描き上げた力作。フレーゲ、ラッセル、ウィトゲンシュタインの所説を借りながら、独自の体系的工夫の下で、言語の働きを、実践的文脈で解明する稀有の試み。
渡辺保推薦
井上ひさし『芝居の面白さ、教えます』(作品社)日本編2,970円、海外篇3,520円
芝居の面白さはだれにでも分かっている様でいて、そのツボが意外に難しい。それを分かりやすく書いたのが本書。宮沢賢治、三島由紀夫らの作品を論じた日本編と、シェイクスピア、チェーホフらの作品の海外篇の2冊。
渡邊十絲子推薦
郡司ペギオ幸夫『創造性はどこからやってくるか 天然表現の世界』(ちくま新書)1,034円
誰もがさまざまな場で自己表現を求められるが、「表現とはなにか」をつかんでいる人は多くない。表現は、情報開示や伝達とはまったく性質の異なる行為である。この本は、おのれの外側にあるものを「召喚する」ことをめぐって、表現の本質にせまっている。