玉村豊男『料理の四面体』を読む

 玉村豊男『料理の四面体』(中公文庫)を読む。東大仏文科を卒業、在学中にフランスへ留学する。料理を研究し、ワインのソムリエでもあり、東御市に住み葡萄を栽培しワインを作っている。

 本書は料理について基礎から考察している。というと難しそうだが、若い頃アルジェリアサハラ砂漠を旅していた時、とぼとぼ歩く玉村を心配して声をかけてくれた青年たちがいた。彼等が作る羊肉のシチューがうまかった。それは大変荒っぽい作り方だった。

 ゆがんだアルミの深鍋を火にかけ、そこに大きな瓶からオリーブ油を注ぎ、ニンニクの皮を剥き小刀で削って1個分を小片にして油の中に落とした。ニンニクの香気が立ち上ってきた頃、骨付きの羊肉を鍋の中に放り込んだ。その後、鍋ごと揺すってオリーブ油を均等に肉片にからめながら炒めた。肉の表面に焦げめがついたころ、真っ赤な唐辛子の粉をかなりの量振りかけた。さらに真っ赤なトマトのヘタを取って鍋の上で手で握り潰した。次いで大きなじゃがいもを2個、小刀で皮を剥いてから四つ切にして鍋に放り込んだ。そして塩をふたつまみほど入れて、もう一度鍋を揺すると鍋に蓋をした。真っ赤に燃え盛っていた炭火はしだいに峠をこして勢いを失い、あとは自然とトロ火となる。3、40分たったころシチューが出来上がった。

 若い頃砂漠で体験したこの料理が著者にとっての料理の基本となる。なるほど、精密なレシピなどなくても自分なりに工夫して勝手に料理すれば良いのだととても参考になった。

 草野心平創案になる「心平鍋」が紹介されている。生ゴメとゴマ油と水、これらを1:1:15の割合で混ぜる。一人分の夜食を作るのなら米とゴマ油をそれぞれおちょこに1杯、水をおちょこに15杯、これを一緒に土鍋に入れ、蓋をして火にかけて2時間放置する。多少の塩味を加えれば滅法うまいゴマ油粥ができあがる。

 本書で料理の原初的な姿を知ったという印象。60代半ばから料理を始めた自分にとって目から鱗が落ちたのだった。