読売新聞読書委員が勧める旅行中に読みたい本

 読売新聞の読書委員が旅行中に読みたい本を推薦している(読売新聞、2023年8月13日付け)。21人の読書委員が各自1冊ずつで21冊。題して「旅行中に読みたい非日常を味わう本」。

 私はこの21冊中3冊に興味を持った。

*牧野邦昭推薦

玉村豊男著『料理の四面体』(中公文庫)

(……)本書では「アルジェリア式羊肉シチュー」から始まり世界各国の様々な料理を紹介しながらそこに潜む共通の構造を探り、最後にレヴィ=ストロース文化人類学(と、恐らくはソシュール言語学)を踏まえた料理の普遍的構造「料理の四面体」が提示される。

 こう書くと難しそうだが、登場する料理は著者の文体もありどれも魅力的。料理の知識と抽象的な思考法が同時に身につく「おいしい本」である。

 

*小川哲推薦

テッド・チャン著、大森望訳『息吹』(ハヤカワ文庫)

(……)テッド・チャンは私がもっとも好きなSF作家で、とんでもなく寡作なのだが、そのぶん発表する作品はどれも一級品だ。表題作の「息吹」はそもそも人間が一人も出てこない。タイムトラベルものもあれば、人工知能の作品もある。非日常の中でさらなる非日常を感じ、くだらない日常としばしの間お別れしましょう。

 

*小川寿子推薦

養老孟司著『解剖学教室へようこそ』(ちくま文庫

 「死生観を研究するなら、解剖しなきゃだめだよ」。養老先生に促されて東大解剖学教室を訪れてから、はや30年が経つ。ルネサンス期の墓碑の翻訳を勧められたご縁で何度か研究室にお邪魔した。お盆の候、ついに解剖学教室を訪れ、解剖に少し触れた。鮮烈であった。ああ、人間とは何たる存在か。

 授業を想定した1993年の本の文庫化。解剖のみならず、医学・科学・人文学などすべての叡智が講義の形で収録された愉快な一冊。細胞とは何? 身体と心の関係は? ミクロからマクロまでの存在の不思議満載の本書で、涼しい夏を満喫したい。

 

 その他気になった本の書名だけ。

*佐藤義雄推薦

サマセット・モーム著、金原瑞人訳『英国諜報員アシェンデン』(新潮文庫

 

*小泉悠推薦

長野まゆみ著『天体会議』(河出文庫