毎日新聞が年末書評欄で恒例の「2018この3冊」を2回にわたって特集した(12月9日、12月16日)。書評委員がそれぞれ2018年のベスト3冊を推薦している。その中から私も興味を持った思った本を選んでみた。
山崎正和(推薦)
『エドゥアール・マネ 西洋絵画史の革命』三浦篤著(角川選書・2160円)
西洋古典絵画史はマネに終わり、現代絵画史はマネに始まるという新説は、「メタ絵画」の概念の提唱とともにそれこそ革命的だが、練達の文章がその正しさを納得させる。フランス語での出版が切望される世界規模の傑作。
これのみ読んでブログで紹介した。
養老孟司(推薦)
『脳は回復する 高次機能障害からの脱出』鈴木大介著(新潮新書・886円)
闘病記として出色。なにより気が滅入らないし、表現がじつに上手だから、医師にも介護者にも大いに参考になる。自分は頭が普通だと思っている人も、読んだ方がいいと思う。
私は読まねばならない。
若島正(推薦)
『U & I』ニコルソン・ベイカー著、有好宏文訳(白水社・2592円)
『U & I』は、傑作『中二階』と並んで、ニコルソン・ベイカーのベストと呼ぶべき怪作である。ジョン・アップダイクに対する異常な愛情が書かせた本だという以外に言いようがなく、とにかく読んでみることをおすすめするしかない。
橋爪大三郎(推薦)
『モノに心はあるのか 動物行動学から考える「世界の仕組み」』森山徹著(新潮選書・1296円)
ダンゴムシに「心がある」ことを実証した動物学者による、思索の書物。ふつう心と思われるものの実体を、潜在的な行動プログラムと想定し、生き物はもちろん、石にも心があると言えると説く。
ダンゴムシは読んだ。とても面白かったから、これも読もう。
辻原登(推薦)
『孤独の発明 または言語の政治性』三浦雅士著(講談社・3780円)
本書は言語の考察で、これほど遠くまで、しかもいささかの晦渋さもなく連れ出してくれる本は稀れである。刺激度は、ジュリアン・ジェインズの『神々の沈黙』やアーサー・O・ラヴジョイの『存在の大いなる連鎖』を読んで以来だ。/とりわけ第6章「光のスイッチ」では目が啓き、世界を初めて見る思いがした。
持田叙子(推薦)
『孤独の発明 または言語の政治性』三浦雅士著(講談社・3780円)
評論の大著。孤独を淋しさなどの感傷から徹底的に切り離す。孤独とは、エネルギー。生まれ落ちて私たちは、みずからに問う。ワタシとは何? なぜここにいるの? これこそ言語のはじまり。この思想を軸に文学と芸術を深く論ずる。随所に著者の人生の記憶が薫り、かぐわしい。
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『名句の所以 近現代俳句をじっくり読む』小澤實樗(毎日新聞出版・2376円)
今年はとくに俳句に心身をあたためられた。この小さな詩形に夢中になっていた青春時代を思い出した。本書は近現代俳句のこまやかな解説の書。懇切な鑑賞文にみちびかれ、季節の色や匂いが立ちのぼる。ため息に似たひそやかな情緒が胸を濡らす。
三浦雅士は2人が推薦している。でも大著なんだよなあ。文庫化するまで待とうか。
斎藤環(推薦)
『抽象の力 近代芸術の解析』岡崎乾二郎著(亜紀書房・4104円)
芸術とは、諸感覚から普遍的な秩序=形式を把握する抽象作用という認識プロセスにかかわるための装置である。美術史の深層構造に、こうした「抽象に至るプロセス」を想定し、豊富な図版とともに美術史を再定義する大著。決定版とも言うべき熊谷守一論も読み応えがある。
同じ著者の『ルネサンス 経験の条件』(文春学藝ライブラリー)も買ったまま読んでない。
張 競(推薦)
『リズムの哲学ノート』山崎正和著(中央公論新社・2376円)
リズムはとらえるところのないもので、これまで哲学問題として正面から論じられてきたことはほとんどない。本書は時間、空間、身体、認識、科学など複数の視点からリズムについて全面的な考察を行った。周期的な動きを動態として捉え、その深層構造と意味作用を解き明かした。
同じ著者の『世界文明史の試み』(中公文庫)もまだ読んでない。
中島岳志(推薦)
『原民喜 死と愛と孤独の肖像』梯久美子著(岩波新書・929円)
本書は広島での被爆体験を描いた「夏の花」で知られる作家・原民喜の評伝。原は1951年に自殺するが、その過程が静かに、そして説得的に描かれる。原が生きるうえで、死者の存在がいかに重要だったかがわかる。
以上9冊。大著もいくつかあり、来年読み切れるだろうか? 現在でも積読が千冊はありそうなのに・・・。ふう。
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