堀江敏幸『傍らにいた人』を読む

 堀江敏幸『傍らにいた人』(日本経済新聞出版社)を読む。版元から分かる通り、日本経済新聞に毎週連載していたもの。現在表参道のギャラリー412で野見山暁治「カット展」が開かれているが、それは堀江の日経の連載に挿絵として描かれたものを展示している(12月28日まで)。展示の一部を次に紹介する。




 本書では野見山の挿絵は表紙に1点使われているだけだった。ちょっと残念。堀江のエッセイは4ページ前後の短いものながら、国木田独歩の「忘れ得ぬ人々」から最後の庄野潤三の「プールサイド小景」まで46篇の小説について、その一部を取り出して印象的に書き綴っている。エッセイはほとんど長篇の一部のように前回のエピソードに重ねて書かれている。それは次のように続く。梅崎春生「小さな町にて」、小山清「小さな町」、シャルル=ルイ・フィリップ「小さき町にて」、野呂邦暢「小さな町にて」等々。短篇のあるエピソードであったり、核心であったりするものを手品のようにつないでいく。ああ、これが作家の読み方なのかと深く印象に残った。そればかりでなく、そのつなぎ方、連想の仕方が巧いのだ。思わず「芸だね」という言葉が浮かんだ。これは司馬遼太郎が紹介している東京の経営者の言葉で、大阪商人の上方商法について、「商売というより、芸だね」と言ったという。私が感じたのは、単なるエッセイというより芸だねというものだった。
 見事な職人芸を見せられた思いだった。


傍らにいた人

傍らにいた人