中島国彦『森鴎外』を読む

 中島国彦森鴎外』(岩波新書)を読む。鴎外の「決定版」評伝。私は漱石はほとんど読んだが鴎外はほとんど読んでいない。しかし漱石と並ぶ近代文学の重要作家だから読んでみなければなるまい。

 鴎外は『舞姫』を書いたようにドイツ留学中に恋人を作り、別れて帰国したとき彼女が日本へ追いかけてくる。陸軍軍医という立場から周囲が彼女を諦めさせて帰国させる。また二度目の奥さんと鴎外の母の葛藤も有名だが、それらのゴシップ的話題にはほとんど触れることがない。中島は鴎外の陸軍での経歴を追い、作品について割合丁寧に紹介する。淡々とした執筆態度だ。

 「鴎外没後の遺族」として、子供や孫たちが紹介されている。長男於菟(おと)の4男に樊須(はんす)がいる。森樊須は北海道大学理学部の教授で植物ダニの専門家だった。昔私が勤めていた出版社で森樊須先生に植物ダニの原稿を依頼したことがあった。

 本書を読んで私が読んだことがある鴎外の作品は、わずかに「高瀬舟」「最後の一句」「かのやうに」『ヰタ・セクスアリス』くらいだったことを思い出した。やはりもう少し読んでみなければいけない。