奥泉光・加藤陽子『この国の戦争』を読む

 奥泉光加藤陽子『この国の戦争』(河出新書)を読む。副題が「太平洋戦争をどう読むか」とあり、作家の奥泉と日本近現代史が専門の加藤が対談している。これがとても有意義な読書だった。対談形式なので読みやすい。

 

奥泉光  アジア・太平洋戦争を考える準備段階として、近代日本の対外政策の特性も捉えておきたいと思います。とくに重要なのが「主権線・利益線」という考え方ですね。

加藤陽子  はい。周りを海に囲まれ、西に清国、北にロシアに近接する日本が、いかなる安全保障策、当時の言葉でいえば安全感を抱いていたのか、それについてお話します。日本が1894(明治27)年に清国、1904(明治37)年にロシアと開戦するに至った理由は、単純化すれば、朝鮮半島が他国の支配下に入らないように防衛することが大事だとの意見を為政者らが抱いていたからです。(中略)(山県有朋は)日本の安全を確保するためには、主権線の防護とともに、利益線の防護も必要だと論じました。これが有名な主権線・利益線防護論ですが、主権線とは、日本の国境の内部の地域を示し、利益線とは日本の安全に密接な関係を持つ隣接地域を指し、具体的には朝鮮半島を示していました。

 

 「太平洋戦争を「読む」」の章で、参考文献が挙げられている。

 

奥泉  (山本七平の)『一下級士官の見た帝国陸軍』は名著ですね。

加藤  私もそう思います。何度読んでもその度に新しい発見があります。

奥泉  いままさに読まれるべきだと思う。

 

加藤  『毎日新聞』の「今週の本棚」という書評欄で「なつかしい1冊」という企画があります。私は大江健三郎の『見る前に跳べ』を挙げました。コロナ禍の巣ごもりの中で大江健三郎がマイブームになっていまして、あらためて読み直していたんですね。そうしましたら、あらためていろんなことに気づきました。太平洋戦争を理解するのに適した文学作品は何だろうかと考えると、先ずは大岡昇平『レイテ戦記』、田中小実昌『ポロポロ』、奥泉さんの『浪漫的な行軍の記録』の3冊。そして、大江の『芽むしり子撃ち』だと思います。人間の内なる暴力として少年の目から捉えた、気持ち悪いけれどもすごい作品です。

 

 改めて日本近現代史専門の学者による太平洋戦争の優れた講義を受けた思いだ。重要な啓蒙書だと思う。終戦記念日が近いいま多くの人が手に取ってほしい。