C. ブランド『薔薇の輪』を読む

 クリスチアナ・ブランド『薔薇の輪』(創元推理文庫)を読む。英国推理作家協会の会長も務めたことのあるベテラン作家とのこと。私は初めて読んだ。昨年毎日新聞若島正が書評を書いていた(2015年7月5日)。

 このミステリの中心にいる(ように見える)のは、エステラというロンドンの女優である。彼女が絶大な人気を博しているのは、体が不自由でウェールズの小さな村にいる、「スウィートハート」という愛称で呼ばれる一人娘との交流を綴った、新聞の連載記事が国際的な話題になっているからである。実は、その記事はうわべを飾りたてた作り話なのだが、その嘘は仲間である彼女の秘書や新聞記者といった少数の人々によって、秘密を守られている。そこへ、彼女の夫である、シカゴのギャングの大物で、15年間服役していた男が特赦で釈放されたという知らせが入る。彼は心臓病の持ち主で、死ぬ前に娘に一目会いたいから、相棒と一緒にこちらへやってくるというのだ。あわてふためくエステラたち。こうし父娘のご対面となるが、その後で死体が二つ転がり、地元のチャッキー警部の出番がやってくる。

 さらに続ける。

ひとつひとつの出来事の解釈もまた刻々と変転していき、わたしたち読者を翻弄する。いったい何重になっているのかわからないほどの、目まぐるしいひねりが加えられるのがブランドの得意技であり、それは本書にも発揮されている。

 いつも若島正の書評は信頼できるものだ。彼が面白いといえば面白いに決まっている。たしかに本書も悪くはなかった。真相は最後まで見抜けなかった。ほとんど文句なく楽しめたと書いてもいいのだが、わずかな不満が残った。それはテンポが遅いのだ。ひねりの加わった複雑な謎を積み重ねていくために、どうしてもそのあたりをていねいに書き明かさねばならない。するとテンポよくとはいかなくなる。いや、わずかな不満で、統計をとれば不満を持たない読者の方が遥かに多いかもしれないのだが。
 

薔薇の輪 (創元推理文庫)

薔薇の輪 (創元推理文庫)