『ミステリマガジン700【海外篇】』を読む

 杉江松恋・編『ミステリマガジン700【海外篇】』(ハヤカワ・ミステリ文庫)を読む。副題が「創刊700号記念アンソロジー」で、早川書房のミステリ雑誌『ミステリマガジン』の創刊700号を記念した傑作短篇集という優れもの、と思って読んでみた。
 1956年に『エラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジン』として創刊し、1966年に誌名を『ハヤカワ・ミステリマガジン』と改称して、58年間に700号を刊行した。その中から16篇を選んで編集したもの。この海外篇のほかに国内篇も同時に刊行されている。
 選ばれた作家は、フレドリック・ブラウンパトリシア・ハイスミス、ルース・レンデル、ピーター・ラヴゼイイアン・ランキン、レジナルド・ヒルなど私でも知っている名前もあるが、その他の10人は初めて見た名前だ。つまり私がいかにミステリ作家を知らないかということだ。
 面白かったのは、A・H・Z・カー「決定的なひとひねり」、ロバート・アーサー「マニング氏の金のなる木」、ルース・レンデル「子守り」、ジャック・フィニイ「リノで途中下車」などだった。とくに「リノで〜」は賭博場の物語で、勝負の勝ち負けをリアルタイムで語っているその語り口の上手さに舌を巻いた。
 しかし私はミステリの良い読者でないことも自覚した。ミステリは謎が解けた途端それまでの緊張が霧散し、すると後にほとんど何も残らない……ような気がして、これまであまり手を出してこなかったが、その考えを訂正するには今回も至らなかった。
 それでも好きな作家はいて、フロスト警部シリーズのウィングフィールドモース主任警部シリーズのコリン・デクスター、スパイ小説のジョン・ル・カレは、もう絶品印のメケメケ丼だ(何を言っているのか)。ただウィングフィールドは亡くなってしまったし、モース主任警部シリーズは終わってしまったし、ソ連が崩壊してル・カレの活躍の場も消えてしまった。最近流行始めた北欧のミステリも、決定的な作家にはまだ出会えていない。
 他に印象に残っているのは、『偽のデュー警部』とか『深夜プラスワン』『極大射程』やフリーマントルだったろうか。