フィリップ・カー『変わらざるもの』を読む

 フィリップ・カー『変わらざるもの』(PHP文芸文庫)を読む。重量級の傑作ミステリだ。カーはイギリスのミステリ作家。デビュー作は『偽りの街』だった。第2次世界大戦直後のドイツが舞台となっている。主人公のベルンハルト・グンターは戦時中ドイツの親衛隊で警察の仕事をしていた。ナチスには入党していなかった。
 戦後私立探偵を始める。ドイツが連合国に敗れ戦争犯罪者たちが追求されていた。ナチスの幹部たちも逃亡を企てていた。私立探偵の仕事は行方不明者の捜索などが多かった。
 時代が1949年、失踪人の探索を始めたグンターが何者かに拉致される。総ページ数600ページ、戦後のドイツの歴史が深く絡まり合って、ストーリーは複雑さを極め、先が見通せない。最後までほとんど気を抜けなかった。
 なぜこんな傑作がベストセラーにならなかったのだろう。カーのほかの作品も絶版など入手困難なものが多いという。
 本書に限って言えば、戦後ドイツの複雑な歴史が絡まり合っていることがひとつだろう。もうひとつは600ページという大著のせいではないか。そう考えないと、ほかに欠点が見つからないのだ。ここ数年間で読んだミステリのベストだと断言できる(あまりミステリを読んでいないけど)。


変わらざるもの (PHP文芸文庫)

変わらざるもの (PHP文芸文庫)