『戦争小説短篇名作選』を読んで

 講談社文芸文庫 編『戦争小説短篇名作選』(講談社文芸文庫)を読む。先の大戦を舞台にした日本人作家の戦争小説を12篇、作家の名前の50音順に並べている。遠藤周作が1923年生まれで最も年上で、次いで吉行淳之介田中小実昌と続く。20年代生まれはほかに吉村昭竹西寛子、1930年と31年生まれが野坂昭如林京子小松左京となる。あとは戦後生まれで、佐藤泰志が49年、一番若い目取真俊が60年生まれになる。
 戦争小説と言いながら作家たちが若いのだ。戦場経験は皆なかったのではないか。直接戦地で戦った大岡昇平火野葦平野間宏などが選ばれていない。小松左京はSF仕立てで戦争を書いていて、これが一番面白くなかった。それ以外は十分読ませるものだった。吉行以外の作家はは今まであまり読んでいなくて、このようなアンソロジーでようやく読むことができ、そのことも収穫だった。
 女性作家は広島で被爆した竹西寛子、長崎で被爆した林京子の2人が選ばれ、被爆後の大変な生活を描いている。どちらの作品も良かった。あんた女性作家をバカにしてるんでしょう、昔カミさんが言った。いや、バカになんかしてないよ。でも確かに女性作家の作品はあまり読まなかった。思い出しても倉橋由美子や鈴木いずみ、松浦理英子くらいだったかもしれない。この竹西や林を読めば、食わず嫌いだったことを反省しなければならないことがよく分かった。(いや、今では佐多稲子金井美恵子は好きでよく読んでいるが)。
 最も若い目取真が沖縄出身ということもあって、戦争を現代に引き付けて説得力のある戦争小説を書いている。佐藤泰志も戦後生まれなのに、中国戦線での中国人捕虜に対する虐待を正面から書いている。しかも佐藤はこの時高校2年だったという。なんという早熟な才能だったか。しかし芥川賞候補に5回も選ばれながら結局受賞することなく41歳で自殺してしまったという。
 本書は講談社文芸文庫 編となっている。優れた黒子の編集者がいるのだろう。