成田龍一『戦後史入門』を読む

 成田龍一『戦後史入門』(河出文庫)を読む。とてもやさしく書かれている歴史書という印象。そのはずで、末尾に次のように書かれている。

本書は2013年8月に刊行された
『戦後史の考え方・学び方――歴史って何だろう?』
(「14歳の世渡り術」シリーズ)を増補の上、文庫化したものです。

 村上龍が始めた14歳のための仕事術だったか、その路線上に企画されたもので、ヤングアダルト路線よりちょっと下くらい、中学2年生程度を対象に書かれたものらしい。
 たしかに口調がローティーン向けってこんな感じで書くのかなあという感じだが、内容は大人が読んで何ら遜色がない。ていうか、私が知らないことだらけで大変参考になった。とても良い本だと思う。
 まず、先の戦争の呼び名について、いくつかの違った名前があるという。「太平洋戦争」「15年戦争」「アジア・太平洋戦争」「大東亜戦争」など。それらには意味がある。占領軍は公文書で「大東亜戦争」と呼ぶことを禁止した。
 さて、日本は終戦=敗戦でアメリカに占領されたと思っていた。正確には、アメリカ、イギリス、フランス、オランダ、ソ連、中国などによって極東委員会が結成され、アメリカ軍、イギリス連邦軍などの連合国軍が日本を占領した。一時はドイツのように連合国軍が日本を分割統治する案も検討された。その案では、北海道と東北をソ連が、関東と中部と近畿をアメリカが、中国地方と九州をイギリスが、四国を中華民国が統治し、東京はアメリカ、イギリス、中華民国ソ連が共同統治、大阪はアメリカと中華民国が共同統治することが検討された。4か国が共同統治した戦後のウィーンを連想する。行ったことはもちろんないが、グレアム・グリーンの『第三の男』の舞台だった。
 戦後の農地改革についても、小作制度は戦争中の食料管理法の公布によって、すでにガタガタにされていたことが指摘される。視点をずらすと歴史の見え方が変わってくるのだ。
 人気のあった映画『ALWAYS 三丁目の夕日』を取り上げて、そこには1958年当時の一面しか語られていないと言われる。社会運動が盛んだったことや朝鮮戦争の特需によって日本経済が復興したことなどに触れられていない。それによってイメージが変わってくるのだと。
 さらに、沖縄からの視点を重視している。沖縄は戦後27年を経て1972年にやっとアメリカの統治から日本に復帰したのだった。そして女性の問題、在日朝鮮人・韓国人の問題、水俣病などの公害問題が指摘される。
 成田が評価する赤坂真理の小説『東京プリズン』(河出文庫)とE. H. カー『歴史とは何か』(岩波書店)を読んでみよう。


戦後史入門 (河出文庫)

戦後史入門 (河出文庫)