キャロル・リード監督の映画『第三の男』を見て、グレアム・グリーンの原作を読む。映画は2回目、小説は3回目だった。いつもは原作に比べて映画化されたものは劣ると思うのに、両方比べてみてこれは映画の方が優れていると思った。
小説には序文がついていて、二つの関係が明かされている。『落ちた偶像』の成功から次作の注文を受けた。グリーンは「まず物語を書いてからでないと、シナリオを書くことは私にはほとんど不可能だ」と書く。それで出版を意図するものでなくて小説を書き上げた。それを基に監督のキャロル・リードと二人だけで討論してシナリオを完成させた。そして「この場合、映画は物語の決定版」だと書いている。
小説ではハッピーエンドに終っている。リードが選んだのが、墓場からの帰り、長い並木道でハリーが待っている横をアンナが一顧だにせず通り過ぎていくという有名なシーンだった。
地下水道での追いつ追われつのシーンもリードの演出の見事さだろう。
驚いたのはオーソン・ウェルズの若さ、まだ34歳だったんだ。オーソン・ウェルズをたくさん見てはいないが『市民ケーン』や『フォルスタッフ』は強烈な印象を与えられた。何か特別の存在感を持った俳優だと思っている。
戦後すぐの頃のウィーンはアメリカ、イギリス、フランス、ソ連の連合国4国が共同統治というか分割統治をしていた。そのあたりの複雑な背景は映画ではほとんど省かれている。ある意味、両方見て読んでそれぞれが補完して物語が完成するのかもしれない。