H.G.ウェルズ『宇宙戦争』を初めて読む

 H.G.ウェルズ宇宙戦争』(ハヤカワ文庫)を読む。SFの古典中の古典作品だが、今回初めて読んだ。オーソン・ウェルズがラジオ・ドラマ化して、アメリカ社会をパニックに陥れた「火星人襲来」の原作でもある。宇宙人が地球に攻め込んで来るという侵略もののはしり。
 発表されたのが1898年、もう120年近く前になる。そのことがほとんど信じられないくらいの完成度の高さだ。蛸みたいな火星人のイメージはウェルズのこの作品から始まったらしい。宇宙人の侵略ものというSFのひとつのジャンルを確立した作品だ。ウェルズの才能驚くべし!
 ウェルズといえば、大昔読んだ『タイムマシン』の衝撃はまだ忘れない。この『タイムマシン』では、イギリスの階級社会を未来に押し進めて、地上に暮らす上流階級と地下に住む労働者階級に別々に進化した人間の未来を描いていた。想像する社会とは違い、上流階級は地下からの物資に頼るだけの何もしない生活。たしか精神的にずいぶん退化しちゃってるんではなかったか。地下の住民はそれに対して充実した生活を送っている印象がある。とはいえ、もう50年は前の読書の記憶だ。
 『宇宙戦争』に戻ると、さすがに宇宙ものとしてはいかにも古びてしまっている。火星人に襲われるシーンはよく書きこんであって悪くはないけれど、その火星人が自滅していくところは書き急いでいるのか、簡単に済ませてしまっている感が強い。
 古典的SFとして一度は読んでおいた方がよいかもしれないが、そのような留保をつけないと読むのがつらいかもしれない。


宇宙戦争 (ハヤカワ文庫SF)

宇宙戦争 (ハヤカワ文庫SF)