ギャラリイKの福井拓洋展を見る

 東京京橋のギャラリイKで福井拓洋展が開かれている(8月1日まで)。これは毎年恒例の「画廊からの発言 新世代への視点2015」の一環として開かれているものだ。
 福井は1986年静岡県生まれ、2010年に多摩美術大学彫刻学科を卒業し、2012年に同大学大学院美術研究科博士前期課程を修了している。2011年にギャラリイKで「多摩美術大学大学院彫刻専攻選抜展プロジェクト」として初個展、また2013年と2014年にもこのギャラリイKで個展を開いて今回が4回目となる。




 3回目の昨年の個展では、ギャラリーの床を40cm持ち上げていた。今回はさらに床を1mも持ち上げている。ふだんはエレベーターホールからそのままギャラリーの床に続いているのに、今回は階段を5段も上がらなければならない。天井が1mも低くなっていて、お客さんが何人も梁に頭をぶつけたらしい(推測)。
 その床はきれいなフローリングになっていて、しかし直径数cmの穴がいくつも空いている。手を入れてみたが深くて底には届かなかった。これらは何だろう。
 以前このギャラリイKで個展を繰り返していた松山広視のことを連想した。マリーギャラリーで行われた松山の個展に際してブログで紹介したことがある。松山はギャラリーの壁面の1カ所にだけ小さな赤い点を描いていた。直径数mmもない点だ。その他にはなにもない。松山が赤い点を壁に描いた途端、その点がゲシュタルトの図になり、壁面や画廊空間が地に変わる。この図が限りなく小さいので、本来地である壁面や空間が顕在化することになる。地であり背景であったものが前面に躍り出てくるのだ。
 福井のインスタレーションも松山の作品と共通するのではないか。本来単なる床に過ぎなかったものが、ほとんど無意味に嵩上げされて、突然存在を主張し始めたのだ。床という価値ニュートラルな存在が作品に変わって画廊空間の主役になった。床に開けられた穴は、おそらくそれによって床の存在の顕在化を補強する効果を狙っているのではないか。異化効果を狙っているのだろう。
 床の加工技術はしっかりしたものだ。高さが変わらなければ床が加工されているとは気づかないかもしれないほど。それはこのインスタレーションの意図からすれば必要条件だろう。
 おもしろい展示だった。福井はいつも予想もつかない展開をみせてくれる。次にどこへ行くのだろう。楽しみな作家だ。


ギャラリイKの福井拓洋展「CLOUD 9」に驚かされる(2014年4月18日)

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福井拓洋展「ボイド」
2015年7月20日(月)−8月1日(土)
11:30−19:00(最終日は17:00まで)日曜休廊
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ギャラリイK
東京都中央区京橋3-9-7 京橋ポイントビル4階
電話03-3563-4578
http://homepage3.nifty.com/galleryk