木村哲也『宮本常一』(岩波新書)を読む。民俗学者宮本常一の評伝。宮本は『忘れられた日本人』という優れた書の著者であり、「土佐源氏」でも有名だ。宮本は渋沢敬三の教えを受け、渋沢のアチック・ミュージアムの所員をしていた。そして渋沢の「大事なことは主流にならぬことだ。傍流でよく状況を見ていくことだ。舞台で主役をつとめていると、多くのものを見落としてしまう。その見落とされたものの中に大事なものがある」という助言を守った。
しかし、著者木村哲也の大学時代(1990年入学)の頃は宮本常一は完全に忘れられた存在だったという。その後宮本常一は徐々に評価されていく。宮本の影響を受けた者たちとして、木村は鶴見俊輔、安丸良夫、網野善彦、宮崎駿、谷川雁、島尾敏雄、石牟礼道子、森崎和江、本多勝一、司馬遼太郎、鶴見良行らの名前を挙げている。
一方、藤田省三は宮本の描く地方の村落共同体が、翼賛体制を下支えする側面を持っていたことに無自覚であると批判した。色川大吉とは対談をしているが、ほとんど話がかみ合わなかったようだ。
網野善彦は多く宮本から学んでいる。農民以外の非定住の漂白民について、天皇を中心とする農民の均質な国家というそれまでの日本像への疑問など。また網野は宮本常一の再評価の先鞭を付けている。
司馬遼太郎は、『街道をゆく』で何度も宮本常一を取り上げている。
木村哲也という宮本常一を敬愛する民俗学者によって描かれた本書は、宮本常一の業績を顕彰するとても気持ちの良い本だ。宮本常一の魅力がよく伝わってくる。
