岡本太郎と長谷川利行の共通点

 岡本太郎長谷川利行の共通点について考えてみたい。私見では二人に共通するものは筆触であると思う。端的に言ってしまえば筆触が汚い。ここに長谷川利行の「水泳場」の一部を掲載したが、先に描いた色が乾かないうちに次の色を重ねている。色は濁り線が確定せずあいまいになっている。長谷川は知人の家や旅館などに滞在して短期間に早描きしている。アトリエを持たなかったことからじっくり描く時間がなかったのだろう。また描いた端から酒や生活費に変えていかなければならなかった。また、一筆で決める力もなかったのではないか。それが重ねた線に表れている。

 

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長谷川利行「水泳場」

 岡本太郎の筆触も同様のことが言える。ただ岡本は裕福であり、金のために絵を手放す必要はなかった。作品を手許に置いてじっくり描くことができた。そればかりか、過去の作品にも何度も手を入れていたようだ。やはり自信がなかったのじゃないだろうか。

 岡本の作品で「痛ましき腕」がある。これは筆触もきれいで迷いがない。なぜならこれは再制作だからだ。周知のことだが、「痛ましき腕」は戦前パリで描いた作品で、戦後出品を求められたとき岡本の手許にあったのは白黒の小さな写真だけだった。しかも岡本は病に臥せっていたので、小さな写真から大きなキャンバスに描き起こすことを池田龍雄に依頼した。池田は大先輩の頼みなので写真に升目を引き、輪郭を線でキャンバスに描き起こした。それに岡本が着彩したのが現在岡本太郎美術館に展示されている「痛ましき腕」だ。キャプションにちゃんと再制作と書かれている。再制作なので迷いがなかった。もう1点同じように再制作したのがあったような気がする。

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岡本太郎「痛ましき腕」

 私見では二人とも評価が高すぎるように思う。そこまでの画家たちではないだろう。ただ価格は市場の需給で決まるから、私の口を出す世界ではない。