銀座K'sギャラリーanの山本弘展のDM


 東京銀座の銀座K'sギャラリーanで山本弘展が開かれます(10月31日〜11月5日まで)。そのDM葉書です。

「種畜場」 油彩 F30号(72.7×90.9cm)、1978年制作
山本が暮らした長野県飯田地方は地域を流れる天竜川の川霧が濃く、秋の早朝など視界が数メートルほどしかないこともある。題名の種畜場とは村営の家畜の種付場で、早朝の散歩をしていた山本の前に、川霧を通してぼんやりと浮かぶ乳牛が目に入ったという。また山本の好きだった長谷川利行へのオマージュでもある。利行にも乳牛の絵があった。

 山本は霧の向こうの乳牛を描きたかったのか? 然りであり否である。その風景を見たとき、造形として面白いと思ったことがこの作品の動機だろう。しかし、「種畜場」という題名をつけているところから、その動機を隠す意図もないだろう。針生一郎さんが、1994年に開かれた東邦画廊での最初の山本弘展のカタログに、この作品に相応しい文章を寄せている。

……初期の暗鬱な色調の具象から、しだいに形態の単純化と色調のコントラストによる内面の表出へ、そして晩年は奔放な筆触や色塊のせめぎあう抽象化された画面に、イメージが胎生する瀬戸際をねらっているようだ。生活が荒れても、体力が衰えても、作品の質の高さは一貫して失われていない。

 この「種畜場」は1978年の作品。1981年に亡くなる山本の最晩年の作品だ。1979年から亡くなるまでは入院していたりして、作品はわずかしか作っていない。1978年が実質の最晩年であり豊饒の年だった。
 利行へのオマージュと書いた。山本は利行が好きだった。利行の分厚い画集を豊橋に住む友人の画家山本鉄男からもらい、手許において眺めていた。利行がアル中で破滅的な生き方をしたこと、また強い筆触を残す画風などから共感をもっていたようだ。しかし、利行と山本を比べると山本の構図ははるかに力強く色彩もずっと優れている。
 もう一人共通性を感じさせる村上肥出夫との比較では、瀬木慎一さんから次のように評された。村上は俗だけれどあんたの先生の芸術はこんなに高いよ、そう言って手を頭の上まで上げられた。
 今年は山本弘没後35年目の年になる。生きていれば86歳だ。今回優れた小品を集めることができた。ぜひ見に来てください。
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山本弘
2016年10月31日(月)−11月5日(土)
12:00−19:00(金曜12:00−20:00、土曜11:30−17:30)
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銀座K'sギャラリーan
東京都中央区銀座1-13-4 6階(1階は鈴木美術画廊)
http://ks-g.main.jp/
※銀座中央通り、交番の斜め前コージーコーナー横を入り、4本目の道を右折、ホテルサンルートの真ん前。