山本弘の「種畜場」について


 山本弘「種畜場」油彩、F30号(72.7×99.9cm)、1978年制作
 銀座K'sギャラリーanで10月31日から山本弘展が始まる(11月5日まで)。数日前、その案内状のDM葉書をここに紹介して、葉書に載っているこの「種畜場」の絵について書いた。題名の種畜場とは村営の家畜の種付場で、朝の散歩をしていた山本の前に、濃い川霧を通してぼんやりと浮かぶ乳牛が目に入り、その光景を描いたのだと。そのことは間違いないが、なぜこれを描いたのかようやく分かった気がする。
 天竜川の濃い川霧を通して乳牛の黒いまだらがおぼろに浮かんでいる情景だ。それを描こうとしたのだろうと思ったが、テーマは牛ではなく霧だろうと気がついた。霧の向こうに乳牛がまだらに見えたとき、これで霧が描けると思ったのではないか。今まで霧がかかっている風景を描いた画家はいたが、茫漠とした霧そのものを描いた画家はいなかったのではないか。濃い霧が目の前に広がっている情景からある種の豊潤な印象を受け、それを造形化したのではないだろうか。霧そのものをモチーフに作品に仕上げるという特殊な試みは、同じ年に別の作品でも試みている。

 それが「芝塀」(F10号)という作品だ。この芝塀は正確には柴塀で、細い木の枝を無数に束ねて家の塀にしているのを昔は見かけたものだった。桃太郎の昔話に、「お爺さんは山へ柴刈りに」とあるあの柴だ。普通絵になりそうもないこの「柴塀」だけで作品に仕上げたのがこの作品で、「種畜場」と「柴塀」は共通しているのではないだろうか。(今回「柴塀」は出品しない予定)
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山本弘
2016年10月31日(月)−11月5日(土)
12:00−19:00(金曜12:00−20:00、土曜11:30−17:30)
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K'sギャラリーan
東京都中央区銀座1-13-14 6F(1階が鈴木美術画廊)
電話03-5159-0809
ホテルサンルートの真ん前