小泉武夫『絶倫食』を読む

 小泉武夫『絶倫食』(新潮文庫)を読む。2007年から2010年にかけて雑誌に発表したもの。初め『月刊プレイボーイ』に連載し、同誌が休刊になったので、後半は新潮社のPR誌『波』に連載した。私は『波』を購読しているので、途中から突然この連載が始まって少し戸惑った。
 発酵学の権威、小泉武夫先生が世界を回って主に男の下半身に効く食べ物や薬などをみつけて紹介している。最初は面白く読んでいた。
 中国の蛇酒屋に入る。よく効く蛇酒はあるかと主人に聞くと、「グラスに朝一杯飲むだけで(……)夜3回って言ってね」と言う。それを所望すると、アマガサヘビとカラスヘビとサンゴヘビの3種混合強請酒を用意してくれた。

……そのグラスの酒をカーッといっきに飲み干しました。ところが、その直後、口の中にはとてつもない青臭い生臭みと、そして脂肪の酸化した(古くなった)陰湿な匂いが広がりました。青臭みのある生臭さは蛇そのものの匂いだと思います。「うわー、臭いなあ、蛇臭いな」と吾が輩が申しますと、おっさん「ウフフフフフ、それよ、それが効くのよ旦那」とニヤニヤしていました。
 その蛇酒は本当に効きましたなあ。その夜、体が熱くなって興奮して眠れないほどで、のぼせて鼻血がタラタラと2度出て、そして朝まで元気でございました。

 こんな調子で延々と雑誌に36回も連載した。そのほとんどが眉唾に近い話だ。小泉もおそらく分かっていて話を面白くするために聞いてきた話を無批判に紹介している。干した貝を食べると、貝類に入っているチロシンというアミノ酸がいち早く脳に送り込まれ、脳に入ったチロシンドーパミンに変わり、さらにノルアドレナリン、アドレナリンに変化し、これらがさまざまな生体高揚エネルギーを生み出すのだと、科学的な雰囲気の話もさしはさんでいる。
 しかしどうみても古い中国の迷信をほじくり返しているだけに思える。途中で読むのが嫌になったけれど、読み始めた本は最後まで読むというのをモットーにしているので我慢して読み終わった。まあ酒席の与太話替わりにはいいかもしれない。


絶倫食 (新潮文庫)

絶倫食 (新潮文庫)