井伏鱒二『珍品堂主人』(中公文庫)を読む。骨董屋であり、料亭を経営した変わった男を主人公にした小説。モデルがあり、秦秀雄という魯山人や小林秀雄などと付き合っていた骨董商だ。彼のことは宇野千代も書いていたのではなかったか。
長篇小説であるにも関わらず、章立てなどなくするすると話が続いて展開していく。この辺り井伏が長篇小説作家ではなく短編小説作家であることの証とも思われる。いずれにしろ決して巧い作家ではない。
巻末エッセイとして白洲正子が秦秀雄について書いている。本書には青山二郎や青柳瑞穂もたびたび登場すると書かれているが、それが誰なのか私には分らない。青山二郎も癖の強い男だったから、骨董商は食えない人間が多いのかもしれない。あまり付き合いたいとも思わないし、だいたい高額な骨董を集めるという趣味が分からない。
骨董商を書いた小説では村田喜代子の『人が見たら蛙になれ』が面白かった。骨董商を客観的に見て批判的に書いていたからだ。
すみません、私には縁の遠い世界でした。