最近出版されたばかりの吉井仁美「現代アートバブル」(光文社新書)がとても良い出来だ。副題が「いま、何が起きているのか」で、「現代アートバブル」という題は売れるように出版社が付けたものだろう。
現代美術のマーケットで何が起きているか、アートフェアとは何か、ギャラリーのオーナーがそれにどう対応しているか等々、具体的に記されている。文章はしっかりしているし、取り上げるエピソードも説得力がある。
何と著者は銀座の老舗吉井画廊の息子さんで、清澄白河のギャラリーhiromiyoshiiを経営している人だった。このギャラリーでは最近Chim↑Pomのメンバー水野さんがカラスとネズミとともに密閉された部屋で22日間暮らすという企画「友情か友喰いか友倒れか/BLACK OF DEATH」(id:mmpolo:20080901)が行われたばかりだ。
本書で取り上げられている日本の新しいアーティスト、榎本耕一、東義孝、松原装志朗、福井篤、塚田守、木村友紀、Chim↑Pom、三宅信太郎、泉太郎、金氏徹平、鬼頭健吾、田中功起のうち、私は2、3人くらいしか知らない。
「作品・アーティストを見る三つの判断基準」として次のように書かれている。
国内外のギャラリーから様々な作品を購入し、またギャラリストとして多くの展覧会を手がけ、若くて成長著しいアーティストと仕事を共にしてきた経験から、私には作品やアーティストを選ぶ際の判断基準のようなものがあります。読者の方の参考になるか分かりませんが、ここで簡単にご紹介したいと思います。
私の判断基準は大きく分けて三つあります。一つは、作品がただ美しいというだけでなく、そのアーティストに将来的な広がりが見えるかどうかということです。
アーティストはひとつの作品の完成、ひとつの展覧会の成功で終わるわけではなく、生涯をかけて制作を続けなければいけません。現時点で完成度が高く魅力的な作品を作っていても、すぐに方向性に行き詰まってしまうこともあります。私は、たとえ荒削りで未完成であっても、これからの展開の可能性が見えるアーティストの作品を選ぶようにしています。
二つ目は、美術史の流れや、自分が依って立つ社会への問題意識に基づいて、新しいチャレンジに向かっているかということです。社会への問題意識を持つというのは、いわゆるジャーナリスティックな意味での社会問題に取り組むということではなく、ひとりの表現者として、社会的な状況の変化を自らの視野におさめ、その変化に感応するということです。(中略)
三つ目は、自分自身の社会的な立ち位置、アイデンティティに対する深い眼差しです。(後略)
類似の現代美術について書かれた本と比べて、ダントツに教えられることが多い。一読をお勧めしたい。