生命と食

 ベストセラーになった名著「生物と無生物のあいだ」(講談社現代新書)の著者福岡伸一の講演を加筆したものが「生命と食」(岩波ブックレット)として出版された。「生きることと食べることの意味」「狂牛病が私たちに問いかけたこと」「食の安全をどう考えるか」の3つの章からなっている。興味深いエピソードを紹介したい。

 日本では2001年に狂牛病の第1号が見つかって以来、35例まで確認されています(2008年8月現在)。ほとんどが乳牛であるホルスタインの牛です。これは、乳牛が幼いうちから人工的な動物性の飼料を食べさせられ、狂牛病の危険性にさらされていることを表しています。(中略)
 ホルスタイン牛は、ミルクが出るうちはいくらでもミルクを吸い取られています。そして、5、6歳の老齢牛になるとミルクの出が悪くなるので、食肉に回されるのです。(中略)スーパーマーケットに並んでいる安い国産牛肉のほとんどは、乳牛です。

 アメリカの畜産規模は日本の20倍以上あるので、日本で狂牛病が35件見つかったことから、アメリカでも同様に汚染が広がっていると類推して単純に計算すると、数百件は見つかることになります。しかし、実際にはこれまでに3件しか見つかっていません。それはアメリカの牛が安全だからではなく、検査をしていないから見つかっていないだけだと、私は思っています。

 日本料理の名店、吉兆の創始者湯木貞一さんの「吉兆味ばなし」(暮しの手帖社)を眺めていたところ、豆腐は本来、夜に食べるものではない、というような話が出ていました。いまの人の多くは、「えっ、何で? 夕食のときに豆腐入りの味噌汁をいただくのは普通のことじゃないか」と不思議に思うのではないでしょうか。
 昔の豆腐は手作りで、夜半から仕込みをして、早朝にできたものが売られていました。ラッパを吹いてお豆腐屋さんが売りにきたものを、お母さんが手鍋に入れて買ってきて、朝の食卓に出して食べる。水に浸けておいても、せいぜい昼ぐらいまでしかもたず、夜には傷んでしまう。

「スーパーマーケットに並んでいる安い国産牛肉のほとんどは、乳牛です」 そうなんだ!
「豆腐は本来、夜に食べるものではない」 知らなかった!