東京国立近代美術館の福沢一郎展「このどうしようもない世界を笑いとばせ」を見る

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 東京竹橋の東京国立近代美術館で福沢一郎展「このどうしようもない世界を笑いとばせ」が開かれている(5月26日まで)。福沢一郎(1898-1992)は昭和戦前期から戦後まで日本の洋画界を牽引した画家だとちらしに書かれている。一般に福沢はシュルレアリスムの画家とされている。今回多数の福沢の作品が並べられていて、福沢の画業をたどることができる。
 シュルレアリスムの画家には巧さが欠かせないだろう。巧みなレアリスムによって非現実の世界を実在するかのように描き表す描写力が。ダリもマグリットデルヴォーも巧みな描写力を持っていた。だからぐにゃりと曲がった時計や樹木で分断された馬や大きな白鳥に変じた雲を実在するかのように表現することができたのだ。
 それに対して福沢は決して上手な画家とは言えなかった。代表作の「牛」にしても、体が透けていて、その空虚さが満洲という紛い物の国を象徴することで、当時の軍部に対する批判になっているものの、肝心の牛の表現がどこか半端な印象が否めない。
 そして福沢は色彩も優れているとは言い難い。アメリカから帰国したあとの短い期間だけ明るい印象的な色彩が現れる。また「トイレットペーパー地獄」のように石油ショック後のトイレットペーパーの品薄をテーマにしたような浅薄な批評も目についた。

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 しばしば群像が描かれるが、藤田嗣治戦争画の群像表現に比べてもその描写力はかなり劣っていると言わざるを得ない。総じて一流の画家とは言い難いというのがこの回顧展を見ての印象だった。しかしながらこのような大規模な回顧展の開催は、その画家について改めてよく知ることができて有意義な企画だったと思う。
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福沢一郎展「このどうしようもない世界を笑いとばせ」
2019年3月12日(火)-5月26日(日)
10:00-17:00(金曜・土曜は20:00まで)月曜休館
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東京国立近代美術館
東京都千代田区北の丸公園3-1
ハローダイヤル03-5777-8600
http://www.momat.go.jp