ジャン・フォートリエ展を見る


 東京ステーションギャラリーでジャン・フォートリエ展が開かれている(7月13日まで)。フォートリエは1898年生まれ、戦後のアンフォルメルを代表する画家だ。今回が日本で初めての回顧展とのこと。
 フォートリエは初めドランに影響された写実的で暗い絵を描いていた。今回の展示でも半分は「レアリスムから厚塗りへ 1922−1938」と題されている。次いで「厚塗りから"人質"へ 1938−1945」「第二次世界大戦後 1945−1964」と続いている。最後の1964はフォートリエの亡くなった年だ。
 展覧会のちらしから、

 第二次世界大戦が勃発すると、パリに戻ってアトリエを構え、制作を再開します。1943年からはドイツ軍の捜査を逃れ、友人の手助けを得て、戦時体験をもとにした連作に取り組みました。これらをパリ解放後すぐのドゥーアン画廊の個展で発表、フォートリエは文学者、批評家らの称賛と批判を浴びながらパリの美術界へと復帰を果たしました。厚い絵肌に戦争で抑圧される人間像を半ば抽象的に印し、その主題と確かな存在感をもつ絵自体の強さによって、《人質》シリーズは、人びとに深い衝撃を与えたのです。

 フォートリエを代表とするアンフォルメルは、第二次世界大戦後のデュビュッフェやヴォルスらの作品に対してフランスの批評家ミシェル・タピエによって名づけられた。日本語では「非定形」とも訳される。また「熱い抽象」とも言われている。熱い抽象は幾何学的な冷たい抽象に対して名づけられた。
 冒頭に掲げたちらしの図版はフォートリエの「人質の頭部」と題された作品。厚い絵具の層を基盤にあいまいな形の人の横顔が浮かびあがっている。この絵画運動アンフォルメル創始者としてフォートリエは高い評価を得ているし、そのことは全く妥当なことだと思う。
 ただ、アンフォルメルの方法は一見適当に描きなぐっても、作品らしきものができてしまうという恐れがあることだ。池田龍雄さんの話で知ったことだが、読売アンデパンダン展が中止されたのは、アンフォルメル風の作品が大量に出品されるようになったからだと言う。誰でも描けてしまうよう傾向があることは否定できないだろう。
 とはいうものの、以前ブリジストン美術館アンフォルメルの展覧会があった時に感じたのだが、フォートリエの作品以外あまり良いものが多いと思えなかった。簡単に描けそうでありながら、やはり良い作品とそうではない作品がある。そうして、今回フォートリエの作品をまとめて見る機会があって、(取りあえずデュビュッフェを除いて)アンフォルメルで最も優れていると思われるこの画家が、意外に傑出した作品といえるものを描いていないことに驚いたのだった。それなのに、ここまで評価が高いのはやはりアンフォルメル創始者ということが大きいのではないかと想像した。
 私がこんな生意気なことを言うのは、わが師山本弘に優れたアンフォルメル的な作品があるからだ。1978年に描かれたその抽象的な作品を初めて針生一郎さんに見せた時、「この画家はどこでアンフォルメルを学んだのだろう」と言われた。山本は半身不随でありながら、おそらく『芸術新潮』などで見た新しい流行を巧みに換骨奪胎していったのだろう。青は藍より出でて藍より青し、という言葉を思い出す。
 批判的なことを書いたが、やはりまとめて見られることには大きな意義があった。このような企画を実現した東京ステーションギャラリーに感謝したい。
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ジャン・フォートリエ展
2014年5月24日(土)−7月13日(日)
10:00−18:00(金曜日は20:00まで)
月曜日休館
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東京ステーションギャラリー
東京都千代田区丸の内1-9-1
電話03-3212-2485
http://www.ejrcf.or.jp/gallery/
JR東京駅 丸の内北口改札前(東京駅丸の内赤煉瓦駅舎内)