銀座のクラブの照明は・・・

 以前クライアントを接待するためしばしば銀座のクラブを利用した。私はあまりホステスに興味がなく、共通の話題も少ないので、時間つぶしに彼女たちの手相をみてやった。これが結構好評だった。
 手相を見るときの私なりのコツは相手の手に直接触れないことだ。ふつう指を相手の掌に這わせ、これが運命線で、生命線が長くてなどとやるのだが、ホステス相手にはこれをやらない。彼女たちの手に触れたいがために手相を見るのではないことを示すためだ。代わりに万年筆などを使った。
 さて、手相を見ようとして初めて分かったことがある。クラブ内は照明が暗くて手相が見えないのだ。しかたなくライターを点火してようやく見ることができた。こんなに暗いとは客は誰も知らないだろう。一度試してみてほしい。手相が見えない明るさとはどんな明るさ(暗さ)なのか。
 銀座のクラブはこんなに暗いのだ。「夜目遠目傘の内」と言うとおりだ。それを実感したのは、山本弘遺作展が開かれた折り、通い慣れた銀座のクラブの美人ママに個展のDMを渡したときだ。画廊にいると、腰の曲がったような見慣れぬ老婆が入ってきた。それがあのクラブのママだった。明るいところで初めて見た無残なママの姿だった。