野呂邦暢『日本史の旅人』を読む

 野呂邦暢『日本史の旅人』(中公文庫)を読む。副題が「野呂邦暢史論集」。野呂邦暢は作家、37歳で芥川賞を受賞するも43歳の若さで亡くなっている。私は40年以上前、野呂の小説が好きで何冊も読んだ記憶がある。亡くなって40年以上経った昨今また野呂が再評価されている。

 そんな流行に乗って、野呂が書いた日本史関係のエッセイを編集したものが本書だ。私は知らなかったが、亡くなる直前に雑誌『邪馬台国』の初代編集長を務めていたという。野呂が急逝して編集長は安本美典に引き継がれた。だから私は『邪馬台国』は安本の個人誌だとばかり思っていた。

 野呂は長崎市出身で、宮崎康平の『まぼろしの邪馬台国』』で古代史の面白さを知ったとあるように、邪馬台国捜しに熱中していく。野呂は邪馬台国九州論である。そして古田武彦邪馬台国博多湾岸説に引き付けられていく。雑誌『歴史と人物』1980年7月号に掲載された「〈熱論〉「邪馬台国」をめぐって」は古田武彦安本美典の対談だったが、その司会を任されている。しかし、その直後急逝してしまった。

 本書は、日本史でも主に九州に係る歴史が取りあげられている。邪馬台国論、筑紫風土記・磐井の叛乱、元寇片桐且元赤穂浪士討ち入り、日露戦争の秋山騎兵旅団、伊佐早氏のゆくえ、などなど。ちょっと司馬遼太郎の歴史に関するエッセイを思い出した。

 野呂の歴史エッセイはそれなりに面白かったが、邪馬台国を中心とする古代史関連のものは、素人がこんなところに深入りしなきゃいいのにという感想だった。季刊『邪馬台国』という雑誌は、専門家と素人の溝を埋めるというのがコンセプトだったらしい。素人のクソ思い付きはいくつも聞かされたが、止せばいいのにと今でも思っている。