池内紀『亡き人へのレクイエム』(みすず書房)を読む。追悼文集が好きで今まで何冊も読んできた。目次を見ると28人の名前が並んでいる。興味を引かれた名前を挙げれば、種村季弘、須賀敦子、木田元、米原万里、赤瀬川原平、山口昌男、野呂邦暢などだ。しかし読み始めれば追悼文らしくない。改めて題名を見直したが、やはり追悼文集のはずだ。疑問に思って途中「あとがき」を読んでみた。
27編、28人を語っている。ペンによる肖像画の試みである。(中略)
死去を告げられて、急遽、追悼文をたのまれた。新聞が多い。そんな場合、追悼文の作法があって、全力をつくしても、どこか書きたりない思いがのこった。(中略)
ここでは最初の追悼文をもとにして、それを何倍かに書きたした。初出のエッセイの後半部分だけを生かして、前半がかわったケースもある。(後略)
書き足したり書き直したりした結果、追悼文らしくないような中途半端な文章になっている。いや印象深いのもあった。ラジオ・プロデューサーだという松井邦雄の追悼は力が入っていて良かった。義理ではなく本気で追悼していることが伝わった。
英文学者で星の先生と紹介されている野尻抱影が大佛次郎の兄だということは本書で初めて知った。写真家の渡辺兼人の兄が人形作家の四谷シモンだと知ったときに次ぐ驚きだった。
大分県出身の詩人丸山薫の詩碑が山形県西川町岩根沢に建っているという。戦争末期に2年半ほど疎開していたのだという。Stepsギャラリーのオーナー吉岡まさみさんは山形市出身だが、このことを知っているだろうか。私は長野県出身だからもちろん知らなかった。椋鳩十の銅像が長野県の喬木村に建っていることは知っているが。
野呂邦暢の追悼文は良かった。私も野呂が好きで、40年ほど前けっこう読んでいた。野呂は現在日本ペンクラブ会長の浅田次郎と同じに自衛隊出身だ。自衛隊文学というものがあるのだろうか。
さて、池内紀の本書である。文章に締まりがない。冗長のきらいがある。もっと削れるのではないかというのが読んでいて感じたことだった。いや、8個も上の方に生意気を言って申し訳ない。
- 作者: 池内紀
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 2016/04/20
- メディア: 単行本
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