宇佐見英治『見る人』(みすず書房)を読む。副題が「ジャコメッティと矢内原」、彫刻家のアルベルト・ジャコメッティと矢内原伊作を取り上げている。宇佐見は矢内原の親しい友人で、矢内原同様ジャコメッティと親密な交友があった。全体が3部に分かれていて、I章がジャコメッティについて書かれた短いエッセイを集めたもの。II章がジャコメッティについて矢内原と宇佐見が対談を行っている。III章は矢内原伊作について書かれたエッセイを集めたもの。
矢内原も宇佐見もジャコメッティと親しく付き合ってきたが、なんといっても矢内原は1年の間を置いて5年間も夏休みにフランスへ通い、その間ジャコメッティの絵や彫刻のモデルになっている。矢内原による『ジャコメッティとともに』という優れた交遊記がある。
本書中の対談がとても良かった。二人がジャコメッティの思い出を語っている。ジャコメッティという一人の彫刻家が二人に大きな影響を与えたことがよくわかる。そして二人がジャコメッティとどのように交流していたのかも。
ただ圧倒的に良かったのはIII章に収録されている宇佐見による矢内原の追悼文だ。「無二の親友だった」と宇佐見が書いている。この章は矢内原について書かれたエッセイを集めたと書いたが、そのほとんどが追悼文なのだった。二人は同じ年に生まれ、昭和10年、矢内原は旧制一高の理乙に入り宇佐見は文甲に入った。その後それぞれ京都と東京で学んだが、同人誌「崖」や「同時代」で協力しあってきた。二人ともフランスへ留学し、ジャコメッティと親しく交わり、その後も先に矢内原が亡くなるまで異常なくらい親しく交友した。他人事ながら羨望してしまうほどだ。
しかし人は別々に死ぬ。残された者が追悼文を書く。とても良い文章だった。順番が逆であっても、残された方が優れた追悼を書いただろう。
ジャコメッティと矢内原の二人について学ぶことができたと思う。この本を推薦してくれたM芝さんにお礼を言いたい。
- 作者: 宇佐見英治
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 1999/09/11
- メディア: 単行本
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