映画『ジャコメッティ』を見る。スイスの世界的な彫刻家ジャコメッティを主人公にした映画で監督はスタンリー・トゥッチ。昨日の朝日新聞の夕刊に真魚八重子の映画評が掲載されていた。
彫刻家のジャコメッティは、油彩画やデッサンも多く残した。本作は彼がある肖像画を描く18日間を捉えた劇映画だ。物語は絵のモデルとなった、アメリカ人の作家で美術評論家のジェイムズ・ロードが記した回想録に基づいている。
1964年、パリを訪れたロード(アーミー・ハマー)は、親交のあったジャコメッティ(ジェフリー・ラッシュ)から肖像画モデルになるよう頼まれる。アメリカへの帰国寸前だったが、2日で終わると言われ、好奇心もあって引き受ける。しかし2日を過ぎても、絵は一向に描きあがる気配がない。
ジャコメッティは完成に近いように見える絵を何度も消して最初から描き直す。モデルのロードは航空会社に電話して予定していた便をたびたび延期することになる。言ってしまえばそれだけの映画だ。それに妻であるアネットやジャコメッティの弟ディエゴ、ジャコメッティの愛人である娼婦が絡む。途中、矢内原伊作がアネットといちゃついているカットが一瞬挟まれる。画商からジャコメッティが200万フラン受け取るシーンもあり、すでにジャコメッティが売れっ子になっていることを偲ばせる。娼婦には求めに応じてBMVの赤いスポーツカーも買い与えているし、娼婦のヒモから強請られれば大金も渡している。
しかし映画はジャコメッティがロードを描き、その絵が駄目だと消し、また描き直すシーンがほとんどを占めている。
やはりジャコメッティのモデルになって、帰国寸前だった矢内原伊作がジャコメッティの要請に従って何度も帰国を延期し、その後毎年夏休みになるとパリを訪ねジャコメッティのモデルをした経験を『ジャコメッティとともに』(みすず書房)に書いていたので、何度も何度も描き直し、絵はいつまでも完成しないことを私たちは知っている。矢内原はジャコメッティ公認でアネットと寝ていたことも。
しかしジャコメッティが世界でもトップクラスの彫刻家であることを知らなかったら、この映画は一般の観客に対して説明不足だろう。ジャコメッティを知っている現代美術愛好家にだったら、きっとそれなりに楽しめるだろうが。ただ、矢内原の本でも、この映画でも、ジャコメッティがどうして自分の描く肖像画が気に入らなくて描き直してばかりいるのか、そのことはついに分からないままだった。ジャコメッティ役のジェフリー・ラッシュは、ジャコメッティによく似ていた。
・ジャコメッティと矢内原伊作(2007年4月16日)
https://hlo.tohotheater.jp/net/movie/TNPI3060J01.do?sakuhin_cd=015378
- 作者: 矢内原伊作
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1969
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