小川敦生『美術の経済』(インプレス)を読む。小川は多摩美大学教授、美術ジャーナリスト、元『日経アート』編集長。
本書は7つの章からなり、「1枚の絵から見えてくる経済の成り立ち」「浮世絵に見る商業アート」「時代とともに変わる美術の価値観」「「パトロンとしての美術館」「贋作と鑑定」「美術作品の流動性を支える仕組み」「これからの美術の経済」となっている。
いずれも美術の経済的な側面に関する疑問に答えてくれている。
「美術館の予算はいくら?」との見出しを立て、「大阪の国立国際美術館は2018年度に、スイスの彫刻家、アルベルト・ジャコメッティの《ヤナイハラI》を、約16億5000万円で購入した」と書いている。ヤナイハラは日本の哲学者矢内原伊作をモデルにした作品だ。国立美術館4館(東京国立近代美術館、京都国立近代美術館、国立西洋美術館、国立国際美術館)の同年度の購入は点数にして303点、金額の合計は40億円に及んだという。個人的には収蔵予算はもっと多くても良いと思う。
佐倉市にあるDIC川村記念美術館は、2013年にバーネット・ニューマンの代表作《アンナの光〉を103億円で海外の企業に売っている。これこそ国内の美術館、できたら国立美術館が購入して海外への流出を避けるべきではなかったか。ニューマンは日本での知名度こそポロックに劣るものの、実は抽象表現主義では一番の評価を得ている代表的な画家なのだ。その代表作なのだからとても惜しかった。
「美術作品の流通を支える美術商」の項で、「美術商は顧客が4人いれば成り立つ」とある。私も実際にそんな話を聞いた。東邦画廊は5人の顧客のために個展を開いていると言った。コンスタントに購入してくれる顧客が5人いるという。それだけで経営が成り立っている。ギャラリー汲美は3人だと言っていた。ただ長く経営していた東邦画廊は、顧客の高年齢化によって、取締役だった顧客が引退したり亡くなったりして、経営が逼迫したようだった。東邦画廊もギャラリー汲美もオーナーの死去によって閉廊している。
そういえば、もう40年近く通っている床屋が、床屋のオヤジの年齢プラスマイナス15歳がその床屋の客だというのが業界の常識だと言っていた。ちょっと画廊と共通性がないだろうか。え、ないかな?