山本弘の写真(1973年)


 山本さん、写真を撮らせてくださいと言うと、それまで白いポロシャツ1枚だったのが浴衣に着替えてきた。アパートへ続く坂道の側壁がコンクリートでできていて、そこにツタが絡まっている。その壁の前に立ってここで撮れと言う。この時山本弘43歳、1973年の9月だった。
 山本弘は意外にシャイな人で、素面で外出したり人に会うことはなかった。必ず酒が入っていた。たくさん飲むのでひどく酔っぱらい、怒ったり泣いたり絡んだりした。ろれつも回らなくだらしがなかった。よれよれでぐじゃぐじゃだった。飯田市民はだから山本弘をそんな風にしか見ていなかった。
 こんな素面の恰好いい姿は、だから家族と親しかった数人の友人たちしか知らないだろう。素面のときはハンサムで恰好良かった。この時からもう42年経っている。
 来週から久しぶりに山本弘展が始まる。