岡村秀典『鏡が語る古代史』を読む

 岡村秀典『鏡が語る古代史』(岩波新書)を読む。中国の前漢の頃から後漢三国時代~晋の建国頃までの古代の銅鏡の精密な歴史を辿っている。それは驚くほど詳細を極め、2000年以上もの過去の鏡の製作者たちとその流れを追っている。
 いままで古代の銅鏡の歴史なんかを書いた日本の本は、多く邪馬台国の鏡について研究するものだった。卑弥呼が魏帝から与えられたとする100枚の銅鏡を三角縁神獣鏡とすると、それが多く出土している近畿が邪馬台国になり、それに対して邪馬台国九州説は三角縁神獣鏡を日本で作られたものだと主張する。
 ところが本書は中国古代の鏡の歴史を中心にもってきて、その勢作集団や流派などを追及している。ここまでそれが詳細に語られるのかと圧倒された。
 しかし最後の30ページほどでようやく卑弥呼が与えられた銅鏡100枚について触れられる。そして三角縁神獣鏡について、魏が特注して卑弥呼に贈ったものだと結論づけている。そのことに十分納得するものではなかったが、本書の目的は古代中国の銅鏡の歴史を描くことが主目的であって、卑弥呼が与えられた銅鏡に触れるのは、販売を重視する出版社の要請によるものではないかと思われた。銅鏡の歴史について優れた達成であると言えるのではないか。

 

 

鏡が語る古代史 (岩波新書)

鏡が語る古代史 (岩波新書)