高階秀爾『芸術のパトロンたち』を読む

 高階秀爾『芸術のパトロンたち』(岩波新書)を読む。先日読んだ矢代幸雄『藝術のパトロン』が日本の美術コレクターを取り上げていたのに対し、本書はヨーロッパの美術パトロンたちを取り上げている。

 ルネッサンス頃のイタリアフィレンツェの同業者組合が彫刻家に依頼して大聖堂洗礼堂入口のブロンズ扉を寄贈している。その後メディチ家が実質的な支配体制を打ち立て芸術家たちのパトロンになっていく。そして教皇たち、ユリウス2世の存在が大きい。またレオナルドを呼び寄せたフランスのフランソワ1世、イギリスのチャールズ1世等々。高階は芸術家たちへの援助額なども計算している。

 その後19世紀には美術館が普及し、一般市民たちが美術に接して、ブルジョワたちが芸術家を援助していく。アカデミーという権威が発達するのは一般市民たちが教養がなくて自分の美意識からはどれが優れた芸術なのか判断できなかったからだ。だが形骸化したアカデミー=サロンに新しい画家たちが反逆する。

 美術評論家たちが登場し、新しい美術傾向を指導する。公衆を相手とする画商が登場し画廊が数多くみられるようになる。画商のヴォラールは早くから印象派を評価して取り扱った。19世紀の末頃から、実業界で成功した桁はずれの大物コレクターが登場する。

 

 フランスでは、ルーヴル百貨店の経営で成功をおさめ、ミレーの《晩鐘》の最後の所有者となったアルフレッド・ショシャールなどがその代表だが、急激に発展を見せた新興国アメリカにその例は多い。金融界の大立者モーガン、石油で莫大な産をなしたロックフェラー、鉄道王と呼ばれたヴァンダービルトなど、今でも語り草になっている大コレクターたちが登場してきたのは、まさしくこの時代のことである。

 

 さすが美術評論界の大物高階秀爾の執筆なので、ほとんど教科書のような完成度だ。近年については様々なエピソードが語られ、興味深い内容になっている。古い時代を語る章は多少なりと無味乾燥に陥りがちだが、上手にまとめている。(←大御所に向かって生意気に上から目線)。

 近年のコレクターたちのエピソードを集めた本があれば読んでみたい。