青山真治監督の映画『EUREKA ユリイカ』を見た



 東京国際映画祭青山真治監督の映画『EUREKA ユリイカ』を見た。『ユリイカ』は22年前2000年に上映された映画だが、今年青山監督が食道がんで亡くなったため、この映画祭で「監督特集〈追悼 青山真治〉」の1本として上映された。

 青山真治の『ユリイカ』について、映画評論家の蓮實重彦が『ドライブ・マイ・カー』より良いと発言していた。以下、蓮實の発言。

 

 実際、濱口監督の問題の作品(『ドライブ・マイ・カー』)については、あまり高い評価を差し控えている。とはいえ、それは、この作品の原作が、「結婚詐欺師的」と呼んで心から軽蔑している某作家の複数の短編であることとは一切無縁の、もっぱら映画的な不備によるものだ。妻との不意の別れをにわかには消化しきれずにいる俳優兼演出家の苦悩を描いていながら、問題の妻を演じる女優に対する演出がいかにも中途半端で、それにふさわしい映画的な存在感で彼女が画面を引きしめることができているとはとても思われなかったからだ。

 亡き妻の録音された声を聞きながら、主役の西島秀俊があれこれ思うという重要なシークエンスは素晴らしい。ここの場面にとどまらず、西島秀俊はみずからが途方もない演技者であることを、画面ごとに証明してみせている。だがそのとき、見ているものは、彼の妻だった女優の顔をありありと記憶に甦らすことができないのである。(中略)

 最後に繰り返しておくが、濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』は決して悪い映画ではない。個人的には『寝ても覚めても』の方を好んでいるが、これだって決して悪い作品ではない。また『偶然と想像』(2021)も素晴らしかった。ただ、どれもこれも水準を遙かに超えている濱口竜介の作品といえども、現在の時点で、青山真治監督の傑作『EUREKA ユリイカ』(2001)の域にはまだ達していないと言わざるをえない。

 

 『ドライブ・マイ・カー』はアメリカのアカデミー国際長篇映画賞などを受賞し、興行的にもヒットした評判の良い映画だった。私も見て高く評価した。蓮實はその映画より青山真治の『ユリイカ』を評価するという。

 蓮實重彦は一流の映画評論家として圧倒的な地位を占めている。ただ、世界の映画評論家が非英語圏の映画のベストを投票して、ダントツ1位に選ばれたのが黒澤明監督の『七人の侍』だったが、蓮實はこれを全く認めないと言っていた。蓮實の評価眼を信じるべきか否か、自分で見て判断しようと思った。

 映画祭のパンフレットに『EUREKA ユリイカ』について短い紹介が載っている。

 

九州の田舎町で起きたバスジャック事件。生き残った運転手の沢井と直樹・梢の兄妹は、心に大きな傷を負う。2年後、沢井たちは、町でともに暮らし始めるが、その町でまたも殺人事件が発生するのだった。

 

 映画は217分、3時間37分の長尺。主演は沢井を演じる役所広司、妹役が当時14歳の宮崎あおい。始め役所に主役が務まるのか危ぶんだ。主役というには華がないと思ったからだ。

 映画は、沢井と兄妹、それに兄妹の従兄の4人が小型バスで旅をするロード・ムービーとして進行する。兄妹は引きこもりをしていたが、旅に出てもほとんど口を利かない。沢井と従兄の掛け合いで進行する。旅先でまたも殺人事件が発生する。

 ほとんど4人だけのドラマだが、十分緊張感があって興味が尽きない。3時間37分が長さを意識させない。役所広司がすばらしかった。

 ネタばれを防ぐために詳しいストーリーは省くが、蓮實重彦の判定に納得した。まぎれもなく傑作だった。青山真治の才能に脱帽した。優れた映画監督だった。映画祭で上映されたもう1本の青山真治監督の『エリ・エリ・レマ・サバクタニ』も見れば良かった。