瀬古浩爾『定年後に見たい映画130本』を読む

 瀬古浩爾『定年後に見たい映画130本』(平凡社新書)を読む。その「まえがき」から、

 

 いま、わたしが見る映画は、単純におもしろそうだなと感じるものばかりである。本書で選んだ映画ももっぱら「おもしろさ一番」である。もう見栄を張ることも、強迫観念に駆られることもない。めんどうくさそうなものは最初からお断りである。とはいえやはり、ある程度の「名画・名作」は入れてある。「名画・名作」も映画だからである。

(中略)

 見る映画は、人間ドラマ、ミステリー映画、刑事映画、戦争映画が多い。恋愛映画、ホラー映画、SF映画以外はほとんど見る。それも多くは洋画である。日本映画は少ない。

 

 瀬古は、そういう基準で選んでいる。私とは真逆の趣味みたいで、瀬古の選んだ130本のうち、私が見た映画はたったの6本だった。

 さて、選んだ映画について瀬古が語っている。

 

イージー・ライダー』(デニス・ホッパー監督)

 ギョロ目でおもしろいやつだな、と印象に残った。当時見たときは、ラストシーンが衝撃的で、それにだまされたが、いま見ると、映画としてはそれほどよくはない。深刻ぶったシーンもあるが、ほぼ無意味。

 

エルビス・オン・ステージ』(デニス・サンダース監督)

 いまからほぼ50年前の映画だが、歌も映画もまったく古びてない。この当時はプレスリーの絶頂期といっていいのではないか。「スィート・キャロライン」など、いまでもラグビーのW杯で歌われている。

 

ダイ・ハード』(ジョン・マクティアナン監督)

 交渉力を擁する人質のエリート社員や、ロサンゼルス警察の無能警視や、テレビに出てくるような知識だけの無能専門家らが、映画でこけにされる。テレビ局の横暴さも描かれる。『ダーティーハリー』のキャラハンはシャレているが、(本作の)マクレーンは煮しめランニングシャツ1枚で泥臭く駆けずりまわるところがいい。いま見ても、現在の並みの映画を軽く凌ぐほどおもしろい。超派手でやりたい放題である。こうなるとアメリカ映画にはとてもかなわない。

 

ブラック・レイン』(リドリー・スコット監督)

 封切当時は相当話題にもなり、そこそこおもしろい作品だと思った。なにしろ我らが高倉健松田優作リドリー・スコットの映画に出ているのだ。ところが見直してみると、映画としては幼稚で二流だったのである。これは見るたびに評価が下がっていく映画だ。

 

異人たちとの夏』(大林宣彦監督)

 (原田が若くして死んだ父親と浅草の寄席で会う)。途中で断ち切られた家族が、もう一度、家族を再開する幻の物語だ。(中略)両親との別れのときがくる。浅草今半での最後の場面は、わたしの映画史のなかで最高の場面のひとつである。父と母が子を思う言葉と、子が父と母に述べる感謝の言葉は至極である。

 

韓国映画について

 そして発見したのである。社会派映画を撮らせたら、韓国映画に勝るものはない、と。実際、『弁護人』と『1987、ある闘いの真実』の2作品には度肝を抜かれた。質量ともに、韓国の社会派映画は現在、世界一であるといっていい。社会派といっても、1980年代までの韓国の軍部独裁政治にかかわるものである。もしまだ未見の人がいるなら、だまされたと思って、まあ一度見てやってください。

 

 

ブラックホーク・ダウン』(リドリー・スコット監督)

 モロッコで撮影したらしいが、ソマリア民兵たちの不気味さが、本物を使っているんじゃないかと思わせるほどリアルである。いやはや、本物の戦闘シーンかと見まがうほど凄まじい。わたしが見た戦争映画のなかではベスト3に入る。

 

プラトーン』(オリバー・ストーン監督)

 ベトナム戦争の映画といえば、なにをおいても『地獄の黙示録』であり、もうひとつはこの『プラトーン』がきまって挙げられる。この映画はウィレム・デフォーの壮絶な死のシーンが強烈な印象を残している。死のシーンが名場面というのもどうかと思うが、わたしにとってこの映画はウィレム・デフォーの映画だ。これ以後の多くの戦争映画は、この映画の亜流にすぎない。

 

フルメタル・ジャケット』(スタンリー・キューブリック監督)

 キューブリックの映画は、『2001年宇宙の旅』『時計じかけのオレンジ』『アイズ ワイルドシャット』は見たが、いずれもわけがわからず、わたしの好みではなかった。そのなかで『フルメタル・ジャケット』は、唯一まともな作品だったように思える。

 

冒険者たち』(ロベール・アンリコ監督)

 (主演女優の)ジョアンナ・シムカスはその後、シドニー・ポワチエと結婚してしまった。さすが慧眼である。許してやった。シムカス以後、彼女以上に美しい女優は出ていない。次点として、ガブリエル・アンウォーとメラニー・ロランがいるだけだ。

 

 最後に瀬古が選ぶ「わたしのベスト15」が挙げられている。

七人の侍』(黒澤明監督)

切腹』(小林正樹監督)

『逃亡地帯』(アーサー・ペン監督)

夜の大捜査線』(ノーマン・ジェイソン監督)

『セント・オブ・ウーマン 夢の香り』(マーティン・ブレスト監督)

カリートの道』(ブライアン・デ・パルマ監督)

アポロ13」(ロン・ハワード監督)

『プラス!』(マーク・ハーマン監督)

グリーンマイル』(フランク・ダラボン監督)

リトル・ダンサー』(スティーブン・ダルドリー監督)

アトランティスのこころ』(スコット・ヒックス監督)

冒険者たち』(ロベール・アンリコ監督)

ワールド・オブ・ライズ』(リドリー・スコット監督)

『ジャンゴ 繋がれざる者』(クエンティン・タランティーノ監督)

ラ・ラ・ランド』(デミアン・チャゼル監督)