映画『ドライブ・マイ・カー』は、臨時に雇った運転手の運転技術が優れているので、主人公の映画監督が彼女に心を許していくという設定だった。それで、彼女(運転手)の運転技術が本当に優れているのか、私の知人の自動車会社の技術者(新車開発エンジニア)であるCさんに映画をみてもらって感想を送ってもらった。Cさんの許可を得てここに紹介する。(Cさんは普段きわめて辛口の運転評価や、車の評価をしている)。
以下、Cさんの評。
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結論から言えば、「これ見よがしに運転スキルを見せる訳ではないが、随所にスムーズな運転が見られた」。
『ドライブ・マイ・カー』はワイルドスピードの様な映画と違い、運転を語ってはいますが、映画の中でそれを見せるシーンはほとんどありません。
でも、ドライバー役の女優さんは相当練習したんだろうなと思えるシーンはありました。
まず、発進がスムーズです。
街中の交差点で信号が青に変わってスタートする時、ぐっとお尻が下がる人がいます。
これはアクセルの踏み込みが多すぎるため。そういう人は直後アクセルを無意識に戻しています。
つまり、運転がギクシャクしています。スムーズにアクセルを踏めないのです。
私が見たところ、世の1/3~1/2の人はこの運転です。
ドライブ・マイ・カーの中ではそういうところが一回もありませんでした。
交差点の右左折も滑らかでしたし、高速道路の運転も非常にスムーズ。
走行中の室内シーンでも、エンジン音はフラット。一定速度で運転している証拠です。
ただ、これは後から音を付けているだけかも知れません。
むしろ、エンジン音がフラットすぎて不自然なこともありました。
高速道路はともかく、街中一般道では速度変化がないことはあり得ません。
もう少しエンジン音に変化があってもいいと思いました。他にも細かいことを言うと幾つか気になるシーンがありました。
ステアリングの回し方は内掛けハンドルがなくてとてもいいのですが、時々リムの内側まで親指を回し込んでしまっている映像がありました。
親指は中まで回り込ませないで、サムレストに置くのが正統です。
駐車中の映像で、枠の真ん中ではなく右寄りに駐車しているのが気になりました。
左ハンドルなので、という言い訳もありますが、助手席にも人が乗るシーンでしたから。
自動車専用道(?)のS字カーブを駆け抜ける所を斜め上後方から撮っているシーン。
S字の手前とSの切り返しでブレーキを踏むのですが、そのタイミングが若干遅いです。
コーナリングに入ってもブレーキが残っていました。
ブレーキはコーナー手前で終了し、コーナは加速気味に抜けるのがコーナリングの基本です。
もちろん、スピードが上がってくればコーナ入り口まで若干制動Gを残してフロント荷重を上げ、 舵の利きをよくする、というテクニックもありますが、今回はそれ程速度が出ていません。
私なら、あそこでブレーキは踏まないと思います。
なお、主人公がドライバーの運転スキルを褒める言葉として、
「重力を感じない」
と言っていましたが、これは正しくないです。
正解は「前後左右加速度を感じない」、あの場面に相応しい言い方なら「Gを感じない」です。
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PS:
車は左ハンドルのSaab9000でした。
エンジン完爆までのスターターモーター使用時間が結構長く、懐かしさを感じました。