ベントレー・コンティネンタルGT試乗記

 今から10年ほど前に、自動車会社で設計の仕事をしている従兄弟にイギリスの名車ベントレーに乗せてもらった。知らない名前の車だったが、あとで調べたら映画監督伊丹十三の愛車だった。伊丹がヤクザに襲われて斬りつけられても抵抗しなかったのに、ヤクザがベントレーを傷つけ始めたら初めて抵抗したと何かで読んだ。そのくらい大事にされている車らしかった。
 乗せてもらったあと、従兄弟が試乗記を書いて送ってくれた。もう10年以上も前になるので、スペック等古くなっているかもしれないが、車の設計者が車をどのように見ているのかが分かってとても面白かった。そのことは古びてはいないと思う。特に「注」の項目が興味深かった。
 「試乗」しているとき、彼がアクセルペダルを一杯に踏みこむと、私の背中は突然シート背面に押しつけられ、思わず声を上げてしまった。これをすると、男はだいたい悲鳴を上げて、女性はみな喜ぶんだよ、と言われた。それを2回体験して2回とも声が出てしまった。

標記の車に週末公道で試乗する機会がありました。W12気筒6,000ccツインターボ560PSというものすごいスペックの2ドアクーペですが、意外に販価は押さえられていて、今回の仕様で2100万円とのことです。この種の車としては世界的にヒットしているらしいですが、その理由の1つがベントレーのエントリーモデルとして破格の安値(!)であるからとか。貧乏人としては、「W12/6,000ccツインターボでエントリー? 2100万円で安値??」と言いたくなりますが。


動力性能は確かに圧倒的で、アクセルペダルを床まで踏むと、まるでワープするみたいに加速します。しかし空車質量が2.4トンもあるので、560PS/650Nmという量産車最大級の出力から期待されるほどの加速感はありません。ベルトライン(注1)が高くてグリーンハウス(注2)が小さい上に車の4隅がほとんど見えないのでスピード感がすごく、メータが異常に渋いような感じがします。夜、某テストコースで全開加速したらコースの照明がいつもとまるで違った流れ方をし、ワープする宇宙船はかくあるのでは、と思えたものでした。


バネ上の動きも小さく、乗り心地は極低速を除いて大変いいです。ステアリングの重さがコーナリングの状況でやや不自然に変化するのが(変化させているんだと思うけれど)気になりましたが、操安性は大変よく、コーナリングは低速でも高速でも自然で、公道では限界はわかりませんでした。


その辺の車とは次元の違う高性能車ですが、私としては今ひとつ好きになれません。巨大な車なのに2+2(注3)というほとんど無駄と言えるパッケージ(注4)、極端に悪い前後方視界、重すぎる質量、悪い燃費、どれもこの車を求めるお金持ちには関係ないことでしょうけれどね〜。
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(注1)ベルトラインとは、車を側面視で見て窓ガラスとドア板金面の境を言います。室内から見るとサイドドアトリムの上端、あるいはドアガラス(見える部分)の下端ということになります。一般にベルトラインを高くすると外形意匠はかっこうよくなりますが、室内の閉塞感が高まり、視界が悪くなります。


(注2)グリーンハウスとは、簡単に言えば室内のガラスに囲まれた部分のことです。ちょっとニュアンスは違いますが、ガラス面積のことだと思って頂いてもいいです。グリーンハウスを大きく取ると、室内の開放感は増しますが、重くなってコストも増えます。空調も大変になります。グリーンハウスを小さくすると外形意匠はかっこうよくなりますが、閉塞感が増して視界が悪くなります。


(注3)2+2というと車の世界では完全な4人乗り(あるいは5人乗り)ではなく、後ろの席がだいぶ狭く我慢席になっている仕様を言うのです。例えば、ソアラセリカのように。従って、2+2と言った場合はほとんどのケース2ドアです。


(注4)パッケージとは車の各要素をどう配置するかを決めたものを言います。車の企画開発というものはコンセプトが決まると、まず意匠すると思っている人が多いのですが、そうではありません。コンセプトを実現するためにパッケージングという作業をするのです。
例えば、エンジンは何を選んでどこにどう載せるか、それと人の関係はどう置くか、ホイールベースはいくつにするか、1列めシートと2列めシートの間隔(カップルディスタンスと言います)はどうするか、ワイド方向で人をどこに配置するか、足の位置は地面からどの高さにするか等、決めなければならないことは一杯あります。この様な基本的なレイアウトを決めることをパッケージングと言い、決めたものをパッケージと言います。パッケージはまさにコンセプトとエンジニアリングの接点なんです。

 私はオートバイの中型免許しか持ってないが、750ccとかもっと大排気量のオートバイと比べたらどうなんだろう。発進だけならバイクもそここそこ加速を楽しめるのだけれど。


※参考資料