『誰も戦争を教えてくれなかった』を読む

 古市憲寿『誰も戦争を教えてくれなかった』(講談社)を読む。1985年生まれの若い社会学者が、日本や海外の戦争博物館を訪ねて回るというユニークな本。ハワイのパールハーバーアリゾナ・メモリアルから始まって、上海の南京大虐殺記念館を訪ね、広島の平和記念資料館やポーランドアウシュビッツ、ベルリンの国立ドイツ歴史博物館、イタリアのローマ解放歴史博物館、中国の旧満洲国にあるいくつもの博物館、記念館、そして韓国の戦争博物館竹島の韓国名である独島体験館等々を訪れている。また沖縄を始め、日本各地の平和記念館へも足を伸ばしている。何と戦場跡ということで関ヶ原までも行っているのだ。
 さまざまな戦争記念館を訪ねて、巻末には各博物館を「戦争博物館ミシュラン」として採点し、総合点順ベストテンまで発表している。全体にちょっと軽くふざけながらも、左右の見方や国ごとの主張を相対化し、それらを越えた戦争の記憶感といったものを提示している。被害者意識や加害者意識と離れた見方があることを教わった気がする。しかし、それはアウシュビッツ沖縄戦を忘れていいと言うこととも違うことなのだけれど。
 今まで知らなかった視点を教わって、とても良い本だと思った。それにしても著者の軽い筆は、クリントン米国大統領の沖縄での演説も半ば茶化すように軽々と批判してしまう。
 さらに末尾に置かれた「ももいろクローバーZとの対話」が秀逸だ。彼女たちに先の戦争に関するテストを解いてもらった。

A(1)日本が最も長く戦った相手国はどこですか?
古市  夏菜子ちゃんが「韓国」、詩織ちゃんと杏果ちゃん、れにちゃんが「アメリカ」。彩夏ちゃんは空白だから、正解の人はいません。
詩織  えー、嘘でしょ?
夏菜子  じゃあ、中国かな。
古市  そう、中国だね。(中略)
A(2)日本と同盟関係にあった国はどこですか?
古市  夏菜子ちゃんと彩夏ちゃん、れにちゃんは「アメリカ」ってこたえてるんだけど……。あ! もしかして「同盟」って意味が分からない?
夏菜子  日清同盟ってありませんでしたっけ? でも清てどこだろう。
(中略)
詩織  同盟って同じグループってことですよね。
古市  そうそうそう! だから「アメリカ」が同盟国っておかしくない?
夏菜子  でもアメリカとは仲良かったんじゃないの?
古市  アメリカと戦っていたんだよ。
綾夏  なんか友好条約みたいな。日米和親条約
杏果  いや、日米修好通商条約
(中略)

 日本が終戦を迎えた日はいつか? という問いに、1038年11月とか、1975年か1973年? とか、1938年と答えた子もいる。日本が降伏の条件を示した宣言を受け入れ、戦争が終わったその宣言の名前は? との問いには一人を除いて全員「ポツダム宣言」と答えて正解している。
 彼女たちの正解率は低いけど、古市は日本人全体の正解率も低いのだと言って、ももクロをバカにすることなく暖かく接している。
 ちょっと嫌味に、本書の校正ミスの指摘を。脚注409は下記のようになっている。

佐原信・小林達雄『世界史のなかの縄文』新書館、2001年。おじいちゃんたちが、ガチンコの喧嘩をしている楽しい本だ。途中から主張の辻褄が合わなくなってくる。

 この「佐原信」は「佐原真」の誤り。でも楽しい読書だった。


誰も戦争を教えてくれなかった

誰も戦争を教えてくれなかった