東京国立博物館の「マルセル・デュシャンと日本美術」を見る


 東京国立博物館で「マルセル・デュシャンと日本美術」が開かれている(12月9日まで)。アメリカのフィラデルフィア美術館所蔵のデュシャンの作品と東京大学駒場博物館の《大ガラス》の複製などを中心に、日本の古美術と絡めて展示されている。

 始めに絵画作品が並んでいるが、《階段を降りる裸体》以外あまり興味を惹かれない。もしデュシャンに絵画以外の作品がなかったらさほど重要な作家とは認められなかっただろう。



 ついで自転車の車輪や瓶乾燥器、便器などのレディーメイド作品が並んでいる。これらの作品こそデュシャンを20世紀美術の転轍機たらしめた作品だ。きわめて重要な作品群だがみなオリジナルではなく再制作のものできれいだ。だがこのようなコンセプチュアル・アートはオリジナルにこだわる必要はないだろう。目の前にある作品は作家の考えた美術の概念を実体化したもので、重要なのはその「モノ」を通して表現される概念=思想なのだ。極端に言えば作品の写真でもそれほど遜色はないだろう。



 そして《大ガラス》が展示されている。複製品なのでオリジナルのようなガラスのひび割れはない。透明なガラスが後ろの壁面と重なって見えてとても見づらい。これを見ながらこの作品について考えるよりも、自宅で美術書の図版を見ながら考えたり、評論家たちの解釈を読む方が理解しやすいように思う。
 例の《遺作》については、フィラデルフィア美術館に設置されているものなので移動は不可能で、今展では映像で解説している。また「トランクの中の箱」などの資料も展示されているが、これらについては別途デュシャンに関する書籍を見るしか詳しいことは分からない。
 最後に伝千利休作という花入れや長次郎の黒楽茶碗、本阿弥光悦作の舟橋蒔絵硯箱などが展示されている。黒楽茶碗は日本のレディーメイドという扱いだ。デュシャンに日本の古美術を合わせて展示したのは、本展を東京国立近代美術館国立西洋美術館でなくて東京国立博物館で開催することのアリバイ作りなのではないだろうか。
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マルセル・デュシャンと日本美術」
2018年10月2日(火)−12月9日(日)
9:30―17:00(金・土と10/31、11/1は21:00まで)月曜日休館
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東京国立博物館平成館
電話03-5777-8600(ハローダイヤル)
http://www.duchamp2018.jp/